Stage22 「そろそろ、お迎えが来る頃かしら。」 「いったい誰が来るんだよ。」 「あら、あなたも良く知っている人物だと思うわ。」 “KID”の正体については、彼女にばれていないと新一は推測していた。 もし、彼女がその正体を知っているのなら、KIDでないときに殺すのも可能だったろうし、 なによりR.Aにいち早く情報を流すだろう。 だが、今の口振りでは、まるでKIDの正体を知っているようで・・・・。 「父が死んでから、数十年たったわ。それならKIDはもう50代後半から60代。 そんな人間にあんな軽業は出来ないはず。 こちらでのKIDの仕事を拝見させて貰ったのよ。そして悟ったわ。 あれは、私の知っているKIDではないとね。 おそらく、誰かがまねをしたか・・・・後継者である親族。 でも、前者の説は薄いわ。可能性が高いのは後者。」 「初代KIDの親族っていったってここにくるはずは・・・。」 「必ず来るわよ。KIDはあなたを誰よりも大切に思っているのだから。」 “来るはずはない”そう続けようとした新一の言葉を遮って、 彼女は声高らかにそう自信ありげに、言葉を放つ。 何を根拠にしているのかは分からないが、彼女は相当、頭の切れる人物。 それだけは確かだと思った。 「これだけ広い地下室なら欲しいかも。」 「俺は、こんなセキュリティーのある地下室は遠慮したいけど。」 マリオネット劇場の舞台裏に隠し扉を見つけたまでは良かったが、 そこからは様々なからくりが仕掛けてあった。 奥にある部屋を守るかのように、強大な斧がブンブンと振り回されていたり、 上から槍がふってきたりとその光景は西洋の某トレジャーハンター映画を想像させる。 「ここを父さんも通ったのか。」 聞こえてくるのんきな子どもの会話に苦笑しつつも快斗は様々なトラップを酷使し、 先へと進みながらここを制覇して宝石を手にした父を思い起こしていた。 おそらく、クルーズでの事件で殉職したインターポールの刑事、デイビットの話していた 初代KIDと協力したというのは、ここでのことであろう。 そんなことを考えながら先へ先へと進んでいたとき、僅かだが人の気配を感じた。 その気配には殺気も含まれているため敵ということは間違いではない。 まあ、こんなところに一般人が潜んでいるはずもないのだし。 「お父さん先に行って・・・ どうやらR.Aの雑魚さん方が宝石を盗むために待ちかまえていたみたい。」 「母さんを無傷で連れて帰ってこなかったら許さないからな。」 その声に後ろを振り返れば、 トラップを避けながらも数十人の敵と戦っている雅斗と由佳が見えた。 快斗は一瞬迷ったが、雅斗と由佳の真剣な声と賢明に応戦する姿を見て、 先に進むことが一番だと悟る。 ここに残って彼らの行為を無下にすることなどできるはずもなかった。 「うちの決まりを破るなよ。」 「分かってる。」 「お父さんもね。」 どんなときでも生きのびること。 それが、黒羽家最大の暗黙のルール。 走り去る快斗を確認して、雅斗は改造銃を手にした。 +++++++++++++ 遠くで聞こえる銃弾の音で、新一の意識はどうにか保たれている状況だった。 助けを待つなんてことは、はっきり言って自分のイデアに反するのだが、 手を動かすことさえもう出来ないこの状態では、 誰かを頼ることしか選択肢は残されていなかった。 それでも、と、必死に指先に力を入れて、短い嗚咽を発する。 その最後の抵抗を試みている新一の姿を見ながら、彼女は口元をゆがませて軽くほくそ笑んだ。 カラン いつの間に持ってきたのか、彼女の手の中にあるウイスキーの氷の音が 静寂なこの空間いっぱいを包むように響く。 「そういえば、いつ、私が犯人の一人だと分かったの?」 ウイスキーを近くに置いて、ジェーンは身動きのとれない新一に顔を近づける。 新一はその瞳から視線を逸らすこともなく、怯むこともなく、口を開いた。 「そうじゃないかな?って思ったのはリンツでの事件の時だ。 あの女性への防衛のための射撃だよ。それが確信に変わったのはついさっきだけど。」 「ああ、あれね。」 ジェーンは新一の返答に疑問は全て解決したらしく、 聞くことはもう無いとでも言うように立ち上がって、 机の上に置いておいたウイスキーを飲み干した。 「そろそろ、話すのも辛いでしょう。今すぐ楽にさせてあげるわ。」 空になったグラスに再びウイスキーを注いで、白い粉を溶かしこむ。 おそらく、なにか毒性のある物なのだろう。 自らに危険が迫っていると分かっていても、もう指の先一本も動かす力は残っていなかった。 「ほっといても死ぬんでしょうけど、これ以上待つと、瞳の血色が悪くなるからね。 本当はこのナイフで今すぐにその瞳を取り出しても良いのよ? まあ、親戚であるあなたへのサービスってところかしら。」 鼻を突くようなアルコールの匂いが、すぐそばで感じていた。 +++++++++++++ 「私を殺そうなんて、100万年早いのよ。」 「いつのまに、そんな物用意したんだ?」 目の前で、狂ったように絶叫を発している優也を見下すような視線で見つめながら、 由梨は手の中に持っている小銃を彼の傍へと投げ捨てた。 優也が発砲する前に、由梨は隠し持っていた銃を彼へと向けたのだ。 打ち込んだのは銃弾ではなく即効性があり幻覚作用のある薬品を塗りこんだ針。 迷うことなく、優也の動脈に突き刺さったそれは、彼を幻想の世界へと引きずり込む。 彼によって殺された女達の、怨念という名の悪夢へ・・・。 「さてと、警察にそろそろ連絡を入れないと。」 「いつまでも、冷たい河の捜索をさせるのもかわいそうだしな。」 人々が活動する時間帯となったためか、ちらほらと人影が見え始める。 このままここにいては、目の前で狂っている男と何か関係があるのではないかと よけいな誤解を与えかねない。 そう判断した2人は、恐怖でガタガタと震える男をその場に残すと、 警察へ連絡を入れるために公衆電話を捜し始めるのだった。 +++++++++++++ 目の前で倒れていく男達を見ながら、私はいつまでこんな日々が続くのだろうと思っていた。 生まれてから、幸せだと、はっきり言える自信はあるけれど、 両親の仕事上の都合で戦うことは同級生の子達とくらべて遙かに多かった気がする。 小学生の頃までは、毎日のようにお父さんが護身術を、蘭さんが空手を教えてくれた。 そして、中学にあがってからは、雅斗が始めたKIDの仕事の手伝いで、 警察や裏組織との戦いも増えてきて、 相手を躊躇せずに殴れる自分がいることに気づいたのは最近のこと。 「由佳っ。集中しろ!!」 「分かってるっ。」 相手が本気で殺しにかかってくるのだから、一瞬でも気を散らせば あっと言う間にこの世とはお別れ。 こんな生活がきっとこれからも続くのだろう。 「ああ、もう!!うざいっ!!!」 思わず叫んだ一言は、邪魔する敵にたいしてか、それとも頭を渦巻く思考にたいしてか 考えれば考えるほど、訳の分からない感情が頭の中を渦巻いて こっちに来てからと言うもの、日頃は考えもしないよけいなことを考えてしまって 蓄積するのは疲れとストレス・・・。 私の周りにいる敵は皆、ちょうどいいストレス解消の相手。 そう思って、次々に倒していく。 本当に最低なストレス解消方法。 鋭いナイフも拳銃も怯む要素にはなりはしない。 当たらなくっちゃ、そんな道具も意味をなさないのだから。 「由佳!!!」 目の前を流れていく大量の緋色の血が 私の血なのか、雅斗の血なのか、敵の物なのか・・・分からなかった。 +++++++++++++ 「雅斗・・・由佳?」 上からふってくる、短剣を全て拳銃でぶち壊して俺はふと足を止める。 今、一瞬だが由佳を呼ぶ雅斗の声が聞こえた気がした。 あそこからはもう随分と走ったのだから声が届く範囲でもないはずなのに・・。 戻ろうかと、一瞬足が向かいそうになる。 それでも・・・・ 「ごめん。」 今、一番救いたいのは、新一だから。 僅かな光が漏れる扉を見つけて俺はその扉を蹴破った。 あとがき 場面がころころ変わりすぎ・・・分かりづらくてすみません(汗) |