Stage25 点滴の音と、隣に誰かのいる気配・・・。 ここは・・・病院? 由佳は差し込める柔らかな光に目を細め辺りを見渡した。 「起きたの?由佳。」 「哀・・姉?なんでここに。」 「ここは、日本よ。黒羽君を呼んでくるわ。」 「えっ、ちょっと待って・・。ツっ。」 部屋を出ようとする哀の袖を掴むために、 飛び上がるようにして起きたために腹部の辺りがキリッと痛みに悲鳴を上げる。 哀は由佳がなぜそのような動作を取ったか理解できなかったが、 慌てて由佳の傍まで来ると傷口を確認した。 どうやら傷は開いていないようだ・・・。 「由佳、あなた腹部を刺されたの。傷は残らないけど、しばらくは安静にしていなさい。」 「・・・うん。」 「何かあったの?あなたが刺されるなんて珍しいし。」 哀は快斗を呼ぶことを諦めて再び由佳の枕元にあるイスへと腰を下ろす。 由佳はしばらくとまどったように視線を泳がせていたが、 軽く息を吐くと決心したのか重い口を開いた。 「ずっと、むこうで考えていたの。自分自身の存在価値と、今の生活を。 特にあんな事件があって、お母さんが苦しむのを見ていたら・・・ なんて私は無力なんだろうって、何で私たち家族が巻き込まれるんだろうって 思わずにはいられなかった。」 「それで?」 「悠斗や由梨はそれぞれ特技を持ってる。 雅斗だってKIDとしての使命をりっぱにこなしていると思うし。 だけど、私には何もない気がする。将来の夢も自分の誇れるなにかも。」 「こんな家庭環境に生まれなきゃよかったって、感じているの? 工藤君はねっからの事件体質だし、面倒事はしょっちゅうあるし、 そんな時に役に立てなかったら劣等感を感じるのは当然だわ。 その悩みの根元にあるのは・・・黒羽君と工藤君の子どもという事実。 彼らの子どもとして生まれてこなければ、 劣等感を感じることも事件に巻き込まれることもなかったはずだしね。」 哀の言葉に由佳は直ぐさま首を横に振った。 一度も、この家族に生まれてきて嫌だとは思ったことなどなかったから。 家族は自分の誇りでもあり自信でもあったから・・・。 由佳の返答に哀は安心したように柔らかく微笑んだ。 「自分の良さなんて自分では分からないものよ。 事件も成長するための糧だとプラス思考で受け止めなさい。 それと、工藤君も黒羽君も同じような悩みを持ったことあるんだから。」 驚いたような顔の由佳の頭をゆっくりと撫でて、哀は席を立つ。 今度こそ、快斗を呼びに行くために。 由佳は出ていく哀を見送ると、 毛布の中に顔を埋め哀の言葉を再びかみしめた。 「黒羽君、由佳起きたわ。」 「そっか、よかった・・・。」 「何て顔してるの。そんなんじゃ由佳のところへは行かせられないわね。 彼女が不安がるから。」 「うん。そうだね。」 快斗が哀の報告に心から喜べないのは、目の前で眠っている大切な人のせい。 今もまだ安心できる状態ではない。 大量に抜かれた血液・・・水面にたたきつけられたときの衝撃。 全てが、体が正常ではない新一にとって多大なダメージとなった。 日本に戻って2日・・・ 由佳はようやく目覚めたのに新一の瞳は固く閉ざされたままだった。
END あとがき ここで、Angle tearsは一応終了です。 いえ、もちろん続きはありますよ。 ここで話が終わったら今後黒羽家シリーズが書けませんし、シリアス風は苦手なので。 前回のあとがきにも書いたようにプロローグを・・・。 あの2対の宝石(天使の涙・堕天使の涙)の行方なども交えて。 |
Back
prorogue