夜中に目を覚ますのはこれで何度目だろうか。 新一はゆっくりと上体を起こすと、汗ばんだ前髪を掻き上げて まだ夜明けには程遠い空を広い窓越しに見つめた。 寝る前にカーテンを閉めた記憶はなく、外では月が中天に輝いている。 風があるのか木々がざわざわと音を立てていた。 〜よひのくち〜 半分にかけた月を見ていると、ふと後ろからそっと抱きしめられる。 少し首を動かし、月からその腕の主に視線を向けると、瞼にそっとキスを落とされた。 「眠れないの?」 「あぁ。外がうるさくてな。」 新一の言葉に彼は抱きしめている腕をとき窓辺へと近づく。 先ほど自分を見つめていた瞳はあんなにも慈愛に満ちていたというのに。 今、外を見つめる視線は恐ろしいほどに冷たい。 「本当にうるさくてたまらないね。新一の安眠を妨害するなんて・・・。 ここに来たことを後悔して消えろ。」 その男、快斗は呪文のように何か短い言葉を唱えてパチンと指を鳴らした。 と、同時にこの家の周りに感じていた嫌な気配が一瞬にして消える。 「おまえ、いつから、んなことも出来るようになったんだ?」 「最近、ちょっと勉強してね。結界とか、呪術とか。」 だからもう大丈夫、と付け加えて快斗は新一の頬をするりと撫でた。 ベットに座る新一は彼をぼんやりと見上げる。 月をバックにしている快斗を見ると、在りし日のKIDが思い出されて。 ちょっとだけ気恥ずかしくなった新一はその視線を慌てて逸らした。 「新一?」 「なんでもねぇよ。それより、おまえだけ、ずりぃ。俺もなんか出来ればいいのに。」 「ダメだよ。」 「は?」 強い否定の言葉に再び見上げれば快斗はニッコリと笑みを深める。 「新一が自分で自分の身を守れるようになったら、俺、いらなくなるじゃん。」 「ばッ!!俺はそんな理由でおまえと居るわけじゃっ。」 「違うって。これは俺のわがまま。だから勘違いして怒らないで。 まぁ、怒った顔の新ちゃんも可愛いけど。」 チュッと再びキスを落として快斗は新一の隣に腰を下ろした。 少しだけベットのスプリングが弾む。 「でもマジな話、最近多いね。悪霊。」 「あぁ。何か嫌な予感がする。」 空を見れば雲がいつの間にか月を多い隠し、部屋には星の光さえ届いていない。 風は一層強さを増し、再びどこからか奴らが集まってきそうにも思えた。 「何があっても大丈夫だから。安心して眠って。」 「快斗。」 「ほら、朝、早いんだろ。」 立ち上がり快斗は新一を横に倒す。 急に引っ張られて不満顔の新一だったが、 快斗の結界のおかげで気配が感じられなくなったせいか、 眠気がゆっくりと自らを取り巻いてく気がした。 「俺がそばに居るから。おやすみ、新一。」 こんな時、新一はいつも思う。 本当は快斗のほうが言霊を使えるんじゃないかって。 だって、快斗にそう言われると・・・。 規則正しく聞こえてきた寝息に快斗は柔らかな笑みを浮かべる。 だが、次の瞬間、快斗はそっと立ち上がり窓辺へと再び歩みを進めた。 「アヌビス、フォルス。」 小さな声であっても、従者である2匹はすぐさまに部屋の隅に残る闇から姿を現す。 漆黒の2匹の獣は闇に同化するのが得意らしい。 「アヌビスは新一の警護を強化しろ。フォルスは引き継続き原因究明を。」 主の威厳をもった言葉にアヌビスもフォルスも黙って頭を垂れ、再び闇へと消えた。 「何が起きてるかは分からないけど。新一を俺から奪う奴は許さない。」 彼らの平穏だった日々が、今、終わろうとしていた。 |