気持ちのいい朝だ。

新一は窓からさす朝日に目を覚まして体を起こした。

それと同時にスルリと薄い掛け布団が落ちて、上半身が露わになる。

「あ、そっか。」

昨晩の情事を思い出して新一はサッと顔を赤く染め、

そっと隣で幸せそうな表情で眠る男を見つめた。

 

 

―あかつき―

 

 

初めての経験だった。

村ではいっさいそういう知識を仕入れる機会が無くて、

平次からたまに聞かせてもらう猥談くらいしか参考にはならなかった。

 

だけど、快斗はとても優しく抱いてくれて、

それでいて新一がいらぬ事を考えるいと間も与えないほど激しかった。

だからこそ、その快楽に溺れることができた。

 

新一はそんなことを考えて、さらに恥ずかしくなったのか

側にある枕を抱きしめてそこに顔を押さえつける。

 

快斗も初めて・・じゃないよな。

 

同じように彼に抱かれた者が居ると考えるだけで

新一はズキッと心が痛むのを感じる。

 

昨日は動揺を隠すため虚勢を張っていたけれど、どんどんと不安になっていった。

 

独占したいとおもう自分のどす黒い感情に。

 

 

新一が落ち込み始めていると、グイッと手首を引っ張られる。

そして、気が付けば快斗の腕のなかに新一は収まっていた。

 

「おはよう、工藤。なに、朝からかわいく百面相してるの?」

 

本当は新一より早く目覚めた快斗。

だけど新一の朝の行動を観察してみたくて、狸寝入りをしていた。

 

顔を赤らめたり、幸せそうな顔をしたり、少し落ち込んだり。

その表情で快斗は新一の考えていることがありありと分かったけれど、

最後の落ち込みは分からなかった。

 

悩むよりも聞くが早い。

快斗はそう思って恥ずかしそうに腕の中に収まっている新一の額に

キスを落とし視線を合わせる。

 

「何を考えてた?」

 

「いや、その、さぁ。黒羽ってこういうの慣れてるかなって。」

 

真剣に見つめられて新一はうまく誤魔化す言葉を見つからず

しょうがなく先ほど考えていたことを素直に口にした。

 

その一言ですべてが分かったのだろう。

彼は苦笑して新一の頭をなでた。

 

「安心して、俺も初めて。」

「え?だって、あんなに・・・。」

「上手だった?」

 

耳を甘噛みしながら、ささやくとビクッと新一の体が反応するのが分かった。

そしてそこは、昨晩しっかりと優秀な頭にたたき込まれた、

新一の感じやすいポイントの1つ。

 

快斗はそんな新一の敏感な反応に満足しながら、

もっと多くの感度の良い場所を見つけたいと内心で静かに誓った。

 

 

 

だが当の新一はどうも快斗に遊ばれている気がして、

満足げな彼とは逆に先ほどの不安が沸々と怒りへと変わっていく。

 

だからこそ、次に瞬間、情事を終えた男女間では考えられないような行動をしたのだろう。

そう、新一は思いっきり右足で快斗を蹴り上げた。

 

「ゴホッ。」

 

「恥ずかしいこと言うんじゃねー。」

 

バッとベットから降りて叫ぶ新一に、快斗はさっきのしおらしさは?と内心で涙を流す。

だが、裸体で怒鳴りつける姿はどこか迫力には欠けていた。

 

 

「俺、シャワー浴びるから。って、何じろじろ見てるんだよ。エロ親父。」

 

「いや〜。だってこんな絶景見ない方がおかしい・・・あ、ゴメン。もう蹴りは勘弁。」

 

スッと上がった右足に快斗は慌てて頭を下げる。

 

「どこで、拾得してるの。そんな蹴り。」

「一通り武術はしてるからな。」

 

勝ち気な笑みを浮かべて新一は側にあるバスタオルを手に取った。

そして、いざシャワールームへと足を進めるが、再び快斗に腕をとられる。

 

「その怪我じゃ、一人で洗えないだろ♪手伝ってやるよ。」

「いいけど、エッチ禁止だからな。」

「それって、生殺しって言いません?工藤さん。」

「俺の趣味は生殺しをすることだ。」

「そんな余裕、無い癖して。意地っ張りだね〜工藤は。」

 

ニッと意地の悪い笑みを浮かべる彼にお仕置きとばかりに再びキスをしかけて

そのまま力の抜けた状態でお風呂場へ強制連行。

 

 

もちろんそこで第2ラウンドが行われたことは言うまでもない。

 

 

 

「疲れた。」

 

バスローブを着込んだまま、側のイスに倒れ込み、

新一はシャワー室から髪を拭いて出てくる快斗を睨み付けた。

 

「工藤。誘ってる?」

「んなわけあるか!!」

 

「はいはい、落ち着いて。とりあえず傷の治療しようね。」

 

昨晩、一度変えた包帯も、やはり激しい運動の後はとれてしまっていて

快斗はどこからか救急セットを取り出すと、消毒を丁寧にし始める。

 

新一は黙って手を差し出し、彼の指の動きをボーっと眺めていた。

 

「黒羽。あのさ。」

「ん?」

 

快斗は手をとめて新一を見る。

それに、続けながら聞いてくれ、と新一は告げた。

 

「俺は黒羽って呼び続けてもかまわないか?」

「どういうこと?」

 

「いや、俺はおまえに秘密を持ってる。だから、それを言える日までは名前を呼ばない。

 俺のけじめってやつ。すごく我が儘だけど良いか?」

 

快斗は包帯を巻き終えて、それからゆっくりと頷く。

 

「俺も工藤に対して秘密があるから、言えるまでは上の名前で呼ぶね。

 でも、きっといつか、名前で呼び合おうよ。」

 

「ああ。」

 

どちらとも無く顔を近づけて、再び深いキスを交わす。

それは、一種の誓い。

 

新一は己の力のことを、そして性別を偽っているから。

快斗は犯罪者であることを告げていないから。

この秘密をお互いに共有できるまで、2人の名前を封印する。

そんな誓いの口づけだった。

 

卯刻の章・完

 

              辰刻の章へ