〜白麗祭〜
Act3
「オーストリアの招待旅行か。」 「由佳も考えるわよね。まあ、いいんじゃないの? 家族旅行しばらくいってないんでしょう?」 「ルシファー様の予言が無くても、貴女が優勝することは 分かり切っているから安心しなさい。」 シンプルなワンピースに 淡い桜色のカーディガンを羽織った上品な服装。 首元には綺麗なアメジストのプチネックレスが輝いている。 上に束ねられて髪は、彼女の色気を充分に引き出していた。 「にしてもおもしろいことやるわよね。青嵐中学校も。」 「そうね、保護者のミスコンなんて。まあ、確かにあの学校に 通う生徒は帰国子女やお坊ちゃま、お嬢様だから そりゃあお母様方も綺麗な人が揃っているとは思うけど。」 「だから、俺が勝てる分けないだろ。」 昨日、寝る前に由佳が家族旅行をしたいと口走った。 なんのことかは最初は分からなかったが、同時に見せられた プリントには今回のミスコンのことが書かれてあった。 優勝者にはオーストリア、1週間の旅が贈られるらしい。 “お母さんなら絶対大丈夫だから” その時は絶対に出ないと断ったのだが、今回は由佳の作戦勝ち。 さすがの新一もこの2人相手に逆らうことは出来ない。 まあ、新一もたまには家族でゆっくり過ごしたいと 思っていたからこそ承諾したのだが。 長男は3代目キッドをしているし、 長女はその手伝いをしている。 父親と言えば、度重なるショーによる多忙なスケジュール。 次女は志保とともに研究に没頭し、 次男は昔の己のように、警察からの要請に引っ張りだこだ。 そのせいで、家族全員で過ごす時間など皆無と言っても良い。 「とにかく、自信を持てばいいのよ。 私が保証するわ、貴女は絶対に優勝する。」 「私もよ。」 急に黙り何かを考え始めた新一に2人はそう優しく告げた。 「やっぱり、新一はどんな洋服着ても似合うよね。」 客間から出てきた新一を見て 快斗は満足げにその格好を隅から隅まで見渡した。 どんなに美しい服も装飾品も新一に着せれば ただの新一を引き立てる要素にしかならない。 それを改めて実感しながらも快斗は機嫌の戻った奥様を エスコートするために手を差し出した。 新一もあきらめがついたのか珍しいほど素直にその手を取る。 「私たちはもう少ししてから出るわ。 黒羽君、由希をよろしくね。」 「いってらっしゃい。」 「「いってきます。」」 「「キャー。2人とも似合ってる!!」」 モダンな黄色の着物に赤の前掛けを付けた姉妹2人が更衣室から出てくると、同じ格好をした女子生徒は感嘆の声をあげた。 「由佳先輩。絶対、私たち優勝ですね。」 「そして、賞金10万円GET!! がんばろうね、由梨ちゃん。」 1〜3年の女子生徒からスカウトして経営する『甘味喫茶』 これを計画したのは由佳。 もちろん、この学校の女子生徒と男子生徒のレベルは高いため、 かなり厳選された顔振りとなっている。 由佳曰く、銀座のホステスにも負けない美女揃いだそうだ。 「結構な人数揃ってるな。」 「やっぱり名門の学校だからね〜。 そう言えば新一。ここの学園祭くるの初めてだよね。」 ポプラの木が生い茂る街路地を抜けてようやくたどり着いた 学校はいくらチケット制となっていても、あたかも 某バンドのコンサートでもあるかのような人数が集まっていた。 それを実感すると同時にこの人数のいる校内に入るのかと 思うと新一の足取りは驚くほど重くなる。 まあ、そのせいで毎年来ていなかったのだが 『今年が中学最後の文化祭だから』 と娘に頼み込まれてしまってはどうも断れないのが父親の 否、母親というものだろうか? そんなことを頭の片隅で考えながらようやくさしかかった 入り口では入場チケットの確認作業が女子生徒達によって 行われていた。その回りには体格の良い男教師の他に 黒服の男達が目を光らせている。理由はただ一つ。 この学校に入る不審者を防ぐためと、女子生徒の護衛。 ここの学校の生徒達はくどいようだが容姿の優れた者が多いのだ。 「新一。行くよ。」 「ああ。」 暫くその場を観察していた新一に 快斗はやんわりと微笑みながら手をさしのべた。それは この大人数によってはぐれないためと、エスコートするために 差し出されたものなのだが、新一はチケットを 要求しているのだと思い、スッと二枚分を手渡す。 その動作に一瞬呆気にとられて、手渡されたチケットを 見つめていた快斗だったが、新一に 『あれ?違ったのか?』と問われてしまい、 苦笑するほかなかった。 「チケット拝見します。」 入り口にたどり着き快斗は先ほど新一に手渡された 2枚のチケットを一人の女子生徒に手渡した。彼女はそれを 受け取るために手を差し出すと同時に決まり文句を口にする。 「どうぞ楽しんでくださいね。」 にこりと微笑んだ彼女に快斗も軽く微笑むと少し強引に 新一の手を掴んで校内へと足を向けるのだった。 |