白麗祭

Act6

 

「ここが、体育館。」

エレベーターで2階まで降りて、

そのあと長い廊下を進むと、特大の体育館があった。

最近作りかえたのか、まだ真新しい香がする。

由梨がゆっくりと扉を開くと、

視界にすさまじい数の人々が飛び込んできた。

 

「凄い人数だな。」

「そりゃあ、今、売り出し中で人気のマジシャンやからな。」

人の数に気押されして呟いた新一の一言に、

関西弁で返事が返ってきた。

その声に3人が隣を見ると、葉平と未だ少女姿の悠斗。

 

「悠斗。もう、紅里お姉さんの店の方はいいの?」

「あ?ああ。もう、疲れたんだってよ。

まあ、客入りはすさまじかったから100%、

展示部門の優勝は貰ったようなものなんだってさ。」

「これも、悠斗ちゃんのおかげやな。」

「殺すぞ、葉平。」

腹を押さえて思い出し笑いをする葉平に

悠斗はドスの利いた声を出すが、少女姿のそれでは迫力が

随分と落ちてしまうようで、葉平はさらに笑い続ける。

 

「あ〜、ようわろうたわ。そろそろ、入らな。

雅斗のショー、始まってしまうで。」

「お前が、笑ってるせいだろ。」

悠斗の一方的な文句を軽く流しながら、

2人は会場の中へと入っていく。

それは、昔から見慣れて変わらない光景で、

新一と快斗も又、気づかれないようにクスクスと笑うのだった。

 

「じゃあ、私は店に戻るから。」

「ありがと、由梨。」

笑っている2人の前にひょこっと顔を出してそう告げると、

由梨はくるりときびすを返して、今着た道を戻っていく。

それを見送った後、快斗と新一も人の熱気と歓声でわき上がる

会場へと足を踏み入れた。

 

「雅斗のショーを観客として見るのは初めてだな。」

「そうか、いつもは共演って形だったからな。」

一番前の席に腰を下ろし、足を組むと快斗の表情がスッと変化した。

それは、新一が知っている3つの顔のうちのひとつ。

マジシャンとしての表情だ。

自分の息子である雅斗は快斗にとってそれだけでなく、

同業者としてのライバルでもある。

もちろん、まだまだその腕は未熟だが、おそらく将来的には

自分を脅かすほどの好敵手になることは間違いない。

 

「俺は、父さんにショーを見せたことがなかったから、

 今の雅斗の気持ちは分からないけど。」

「きっと、緊張していると思うぜ。

でも、雅斗なら凄いショーを作ってくれる。」

 

今頃、ステージ裏で最終準備をしているであろう雅斗。

ショー開始時間まで後5分を切っていた。

 

 

「お待たせいたしました。只今よりステージ部門、

プログラムbP2。中学3年C組、黒羽雅斗による

マジックショーを開始いたします。なお、・・・・。」

 

ショー中の注意事項を司会者が読み上げる中、

雅斗は白い手袋に手を入れると、スッと席を立った。

これから、行われるのはきっと一生思い出に残るショーと

なりうることは、雅斗もよく分かっている。

なんせ、父親に初めて観客としてショーを見せるのだから。

 

「それでは、マジシャン、雅斗の登場です。

皆様、拍手をお願いいたします。」

 

人々の大歓声。

クラスメイトの声援。

ファンクラブらしき集団の黄色い雄叫び。

 

そんな空間の中、雅斗はとても静かだと感じていた。

スッと一瞬、快斗と視線が混じり合う。

その瞳はとても穏やかだった。

 

Lady and gentlemen. It is show time.

 

響き渡る声と共にスッと華麗にお辞儀をすると、ショーは開始された。

 

 

「越される日も近いな。快斗。」

「まだまだだよ。」

前を歩く快斗に新一がそう声をかけると、

苦笑しながら快斗は返事を返した。

 

雅斗のショーは、本当に大成功といえた。

歓声は留まることを知らず、彼が去った後もずっと続いていた。

それだけ、素晴らしかったのだ。本当に。

 

「さて、残すは新一だけだね。」

「ああ、問題は歌だな。」

日も傾きかけた、風も冷たくなってきている。

もう、コンテストまで僅かな時間しか残っていない。

確実に優勝するやめには、どうしても歌を克服する必要があるのだ。

 

「あいつら、俺の音楽嫌いをしらなかったんだな。」

「まあ、新一の声は綺麗だから、予想も付かないんだろうね。」

快斗は昔聞いた新一の歌?らしきものを思い出しながら

苦笑せざるえなかった。

昔聞いた新一の歌は、おそらく歌というものではなかった気がする。

 

「由梨も俺に似ているが歌は苦手だからなぁ。」

「そうそう、由佳と雅斗はさすがに時間的に間に合わないだろうし。」

雅斗はショーの片づけ、由佳は店の現場責任者であるため、

フィナーレにしか間に合わないと言っていた気がする。

 

替え玉作戦は不可能か・・・。

そう、2人が諦めかけたときだった。

 

「歌がどうかしたのか?」

「「悠斗。おまえがいたっ。」」

「え?」

次男に白羽の矢がたった(笑)

 

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