時差ボケで頭が働かない時間帯に黒羽家の面々を

躊躇することなく、たたき起こしたのは有希子だった。

 

 

〜永久花・21〜

 

「はーい。今日は結婚式場の下見に行くわよ。」

 

パンパンと手を叩き、ザッとまっ白なカーテンを開ける。

真夏の陽光が広々としたスイートルームを染め上げ、一気に部屋は朝を向かえた。

ちなみに快斗と新一は裸でベットの中にいるのだが、

そんなことを恥じらう有希子ではない。

 

彼女は、慌てて服を着込む快斗にバスタオルを渡しシャワーを浴びるように告げると

今度は未だ夢の中にいる新一の布団を戸惑うことなく、はがした。

さすがのこれには新一も目を覚ましたらしい。

顔を真っ赤に染めて講義するが、くどいようだが彼の母親。

 

“起きない新ちゃんがわるいの”

っと子供を叱りつけるように腕組みして注意するだけ。

もちろん自分自身に非があるとは毛頭思ってもいないようだ。

 

 

「快斗は?」

「お風呂。新ちゃんは後からにしなさいよ。一緒に行けばまた、長くなるし。」

「なっ、分かってるよ。んなこと。」

「そう?なら良いわ。あと、お風呂上がりにこれを着てね。

 昨日、顔なじみのブティックの店長さんに新ちゃんの雑誌見せたら、

 是非って貰っちゃったの。」

 

 

有希子はそう言って、

花柄がパステル色でプリントされた肌触りのいいワンピースを渡す。

下着が透けるのではないかと思えるほど生地は薄いが、

今日は暑くなるのでちょうどいいかもしれない。

 

 

新一は渡されたそれを眺めながら、俺も慣れてきたよな・・と考える。

まぁ、女になってかれこれ十数年。慣れたくなくても慣れてしまうのであろう。

 

 

 

「それと、日焼け止めはちゃんと塗るのよ。新ちゃんはお化粧しないし。」

「わーてるって。そろそろ、快斗も上がったみたいだし。行ってくる。」

 

そう言ってのっそりと立ち上がった新一は快斗の上着を上半身に着込んだだけの格好。

そんな姿に風呂からでてきた快斗は思わず、

“新一、俺を試してるの?有希子さんの前で!!!”と絶叫したくなった。

後ろでは有希子がクスクスと笑っている。

 

 

相変わらずこの子は自分の魅力に無頓着なのね。

とそのひとみは語っていた。

 

 

 

どうにか理性を総動員して、欲望を抑えた快斗は備え付けの冷蔵庫からミルクを飲む。

日本の物よりは味が薄い気がしたけれど、特に飲みにくくもない。

 

「有希子さん。何か飲みます?」

「ん〜。お構いなく。それにしても、快ちゃんも大変ね。新ちゃん、毎日あんな感じ?」

「まぁ。お陰で、第2ラウンドに突入したパターンも多いんです。」

 

快斗は困ったような口調だったが

それでも、顔には嬉しさがにじみ出ていて、“ご馳走様”と有希子は呟く。

そして、近くのソファーに二人して向き合うように腰をおろした。

 

「一番大変なのは、外に出たときでしょ?私たちも新ちゃんが小さいときは苦労したわ。

 優作と2人で、必死に警戒してたもの。まぁ、あの子は気づいてないけどね。」

「あはは。今もそんな感じですよ。」

「やっぱりそうなんだ。あそこまできたら天然公害よ。ある意味。」

 

有希子はそう言うと、テーブルに置いてあった持参の雑誌をめくる。

そして、ある箇所を開くと快斗にも見えるように再びテーブルにのせた。

 

「ここが予約した結婚式場の候補。衣装は優作の親友のデザイナーに任せてあるわ。

 指輪は、快斗君が用意したのよね?」

「はい、バッチリ。」

「そう、良かった。今日は私の友人がウエディングプランナーをやってるから、

 彼に頼んでおいたの。式場の案内と説明もしてくれるから。」

 

「彼?って男ですか?」

「ん〜。性別的にはそうかもね。」

「へ?」

 

有希子の意味ありげな発言に、快斗は手に持っていたグラスを落としそうになる。

 

 

性別的ってどういう意味なのだろうか?

 

 

そう尋ねたいのはやまやまだったが、有希子が再び雑誌に集中しはじめたので

それ以上声をかけることはできなかった。

 

 

 

 

+++++++

 

 

有希子の友人であるウェディングプランナーとの待ち合わせは、

同じ地区にある有名な公園だった。

もう10時を廻った頃で、人はまばらだが、

それでもジョギングをしている高齢者などにはよく目がつく。

少し出てきたお腹をこれでもかというくらい上下させて走る姿は、

なんとなくのほほんとした気分にさせてくれた。

 

 

 

「あっ、いたいた。ゆう、お待たせ。」

 

待ち合わせの噴水に近づいたとき、有希子は目的の人物を見つけて大きく手を振る。

相手もそれに気づいたらしく、はしゃぐように手を振り替えした。

 

“ゆう”と呼ばれた男性らしき人物は、セミロングの金髪で長身の男。

オレンジ色のアロハシャツを着て、

パッと見た感じではウエディングプランナーと言うよりは

現地のガイドさんといった感じだ。

 

 

それでも近づくに連れて見えてくる、日本人と同様の顔つきや

異様に白い肌などから、現地ガイドのイメージは薄れていく。

 

 

「おそいわよ〜。有希子。日光はお肌の大敵なんだから。」

「ごめ〜ん。この子達が朝からラブラブで。」

「あら〜。それじゃあしょうがないわね。」

 

その口調や人差し指を唇に当てる仕草はどうみても女性的で、

快斗はようやく今朝の有希子の発言を理解した。

性別的には男とは、こういうことだったのだろう。

だからといって、快斗も新一も相手がどんな特性を持とうと

それだけで人を判断するほど浅はかではない。

 

肝心なのは彼がどれだけ自分自身の責任を全うできる人間かどうかだ。

 

 

「紹介するわね。私の娘の由希と娘の旦那様、快斗君。

 そして、こちらが友人の小峯ゆうさん。」

 

「まぁ、いい男♪それに、さすがは有希子の子供ね。

 いろいろと遊びがいがありそうなほどかわいいわ!!」

 

「ゆうちゃん、興奮し過ぎよ。

それじゃあ、2人をお願いね。私は孫達の所に行くから。」

 

「ああ、お孫さんね。今はどこに?」

 

「優作と一緒に観光。午後から合流することになってるの。」

 

 

有希子はそう言うと、優作とペアの腕時計を確認する。

午後10時30分。

今から行けば充分余裕のある時間だ。

 

「あとは、任せて。楽しんでいらっしゃい。」

ポンっと肩を小峯に叩かれて、有希子はフフッと嬉しそうにほほえむ。

「そうするわ。またね、由希、快斗君。」

 

有希子は幸せそうな表情のまま

軽く手を挙げると駆け足で公園から続く並木坂のほうに消えていった。

スキップしそうな足取りはどう見ても、60近くの女性には見えない。

きっと、孫と一緒に歩いても、親子程度の認識であろう。

 

 

 

+++++++++

 

 

「では、改めて。今日から2人の結婚式をお手伝いする小峯ゆうです。

 まぁ、自分でもちょっと変わってるって、分かってるけど、気にしないでね。」

 

さきほどまでとはうって変わって、ゆうは大人びた声を出すと深々と頭を下げる。

おそらくここからは仕事ときちんと割り切っているのだろう。

キリッとしまった表情には、やる気がみなぎっていた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「思い出に残る式にしたいので。」

「うん、任せて。それじゃあ、車に向かいましょう。

 これから私がセレクトした式場に案内するから。とびっきりの式場よ。」

 

小峯はそう言ってウインクすると、快斗の手からカギを抜き取る。

本当に一瞬の仕草だったけれど、その手つきに快斗はスッと目を細めた。

 

 

手癖が悪いと言うよりは・・・。

 

 

その瞬間、嫌な予感が頭をよぎる。

 

 

彼はニコニコと笑いながら、歩き始めるが、快斗の表情は硬い。

新一はそんな快斗に“行こう”と告げると彼の手を引き歩き始めた。

そう、不自然のない間合いを保ちながら。

 

 

あとがき

短いです。おまけに、文章が・・・。

とりあえず、オリキャラ登場。小峯ゆうさん。

イメージ的にお花のデザイナーで眼鏡をかけた金髪の有名人。(分かります?)

 

Back               Next