「快斗?」

「手が傷ついちゃうよ。」

そっと、快斗は彼の手を自分の両手で包みこんだ。

新一はジッと快斗に包まれた手を見る。

快斗の暖かさと優しさに包まれているようで、涙が出そうだった。

 

 

〜治癒の神水・4〜

 

 

「快斗・・。」

「ん?」

「おまえは、・・・俺が傷つくのは嫌か?」

「あたりまえだろ。俺、新一のこと気に入ったんだから。」

 

ふんわりと優しく微笑みかけると、新一は顔を真っ赤にして視線を外す。

別に愛の告白をしたわけじゃないのに。

快斗はそんな言葉でも反応してしまう新一が愛おしくてたまらなかった。

 

自分に言い寄る者達は、男も女も、結局は若という地位の側近にあやかりたい者達ばかり。

だけれど、新一はそんなこと微塵も考えていないのがよく分かる。

新一は自分を変わり種だと言うけれど、新一こそ変わり種だと快斗は思う。

 

「快斗。手を離せ。」

「へ?」

「その・・・期待しちまうだろ。おまえの冗談に。」

 

 

彼が自分を大切に思ってくれていると勘違いしてしまうのが怖い。

 

 

 

森で彼を見つけた瞬間に僅かな興味が芽生えたのは確か。

今まで、殆どの者と上っ面の人間関係しか形成していなかった新一にとってそれは珍しい事で。

だから、最初に顔を合わせたときは部屋の中へはいる勇気がもてなかった。

彼とは上っ面の関係にはなりたくないけれど、どうすればいいのか分からなかったから。

 

 

快斗は外見に反せず、変わり種な性格で、

言葉をかわすたびに新一は彼に興味を持っていくのを実感した。

 

 

その気持ちが何かは分からないけれど。

 

 

新一が人と本気で付き合うのが苦手となったのは幼いときのトラウマが原因だった。

 

新一の血とこの龍神山の清水が混ざれば、

どんな傷も難病も治せる“神水”となることを知った両親は

自分を毎日のように傷つけ、その薬を売った。

父親の下に付く修行僧たちも皆同じだった。

誰も新一が傷つくことを嫌がる者はいなくて、むしろ喜ぶ者たちばかりで。

 

 

この手で、自分の力を知る者全員を殺したのはわずか7歳の時だった。

 

 

 

 

「新一?聞いてる?」

「わりぃ。それより、快斗。手・・・。」

「今言っただろ。俺も新一に興味があるの。」

「へ?」

 

 

驚いたように顔を上げれば、その唇をふさがれた。

最初は触れるだけの・・・そして最後は深く甘いキス。

 

 

「新一は自分の気持ちが分かってないみたいだけど。」

 

唇を離して、力の抜けた彼を支えながら快斗は苦笑を漏らす。

 

「なぁ、今の何だ?」

力のはいらない体にとまどいながら新一は快斗の耳元で彼に尋ねた。

 

この神社で、ほとんど一人も同然に生活してきた新一にその手の知識はない。

快斗はそんな純粋な新一を押し倒しそうになる欲望を理性でもって押さえ込み、

にこりと微笑む。

 

「今のは、そうだなぁ。お互いに大切ですって示すための行為。」

「へぇ〜。快斗って物知りなんだな。」

 

感心する新一に、今までよく無事だったなと快斗は心底思った。

おそらく、志保が全力で守ったのだろうけど。

 

 

志保ちゃんには感謝だね、本当に。

 

 

 

「で?嫌だった?今の。」

「なんか、くすぐったかった・・・かな?」

「じゃあ、もっとイイコトする?」

 

 

力の抜けた新一をそのまま組み敷いて、遠回しに尋ねてみる。

まぁ、率直に“抱いて良い?”と尋ねても良かったが、意味が通じないだろうし。

 

 

「快斗はそれをしたいのか?」

「そりゃ、新一のこと愛しちゃってるからね。」

「ふ〜ん。なら、いいぜ。」

 

 

 

明日、志保ちゃんに殺されるかも。

 

 

 

快斗はそう頭の端で思ったが、不思議そうに見上げてくる新一に

快斗の理性は一瞬で脆くも崩れ、その白い着物を丁寧に脱がせた。

 

 

 

そしてお互いの白い着物が畳に散らばって新一の思考はそこでとぎれた。

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

それから5日が経過して、快斗が城へと戻る日がやってくる。

志保は別れを惜しむ2人に、怪しげな視線を向けていたが特に何も言わなかった。

まぁ、あの様子なら気づいているのだけれど。

 

「結局、光彦君や元太君には会えなかったな。」

「又来いよ。きっとあいつらもお前の良さを分かってくれるさ。」

 

寂しげに笑う快斗の頭をあやすように軽く叩いて、新一は彼の背中を押す。

 

ずっとここにいてはいけない存在だから。

彼の帰りを待つ者達は大勢いるから。

 

 

「道中、気を付けてな。」

「無事着いたらすぐに文を送るから。そして、数日中に会いに来る。」

「待ってる。」

 

新一は笑顔で彼が去るのを見送る。

歩美は新一の袴を掴んで泣いていた。

 

「そろそろ、入りましょう。」

「ああ。歩美、行くぞ。」

「又、会えるんだよね?」

 

歩美はすがるような視線を2人に向ける。

新一と志保は一度視線を絡ませて、同時に苦笑した。

 

「当たり前だろ。」

「絶対に来るわよ。」

 

新一の笑みに歩美の表情も次第に明るくなっていく。

志保はそんな彼らに気を取られていて気づかなかった。

自分たちを見つめる、2つの影の存在に。

 

 

あとがき

急展開しすぎですね〜。

次回は、少しシリアス調かな?

 

 

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