そこから馬にムチを打ち、日暮れと同時にあの村へとさしかかる。

いや、正確に言えば・・・・村のあった場所にだ。

 

 

〜治癒の神水・6〜

 

 

「どうなってるんだ。」

家屋はすべて焼け、至る所で煙が上がり火がくすぶっている。

道には紅い血の海と、死体が転がっていた。

 

「新一!!」

神社の中へと土足で上がり込んで、部屋中を探し回る。

きっと彼はどこかにいるはずだ。

そう信じて、土足で上がり込んだ自分を叱る声を期待して、快斗は歩き回る。

だが・・・どこにも彼の姿はなかった。

 

「何で・・・何でだよっっ。」

 

数日前に自分が治療に徹していた部屋に戻ると、快斗は畳を強く殴りつけた。

あと、数日ここに残って入れたなら彼を守れただろのに。

後悔の念と、悲しみが頭の中をぐるぐると回る。

あの時と同じなのは、遠くで蜩が鳴いていると言うことだけ。

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

「快斗。外に出ないか?」

「出ていいって?」

「ああ、志保から許可が出たし。この辺りを案内するよ。」

神社に来て3日目の昼時、書物を読んでいた快斗に新一は声をかけた。

そんな新一の誘いを快斗が断るはずもなく、2つ返事を返す。

 

 

降り続いていた雨も止み、竹林に付いた水滴がキラキラと輝く美しい庭。

そこを、2人で歩きながら神社の裏手へと進む。

 

「これって、異国の言葉で“デート”て言うんだって。」

「デート?散歩って意味なのか。」

「違うよ。大好きな人と一緒に出かけること。」

「じゃあ、快斗との初デートだな。」

 

お互いの指を絡み合わせて、そのまま裏山を探索した。

綺麗な湧き水を飲んだり、川でずぶ濡れになるまで遊んだり・・・

 

+++++++++++++++

 

「若様?」

思考に浸っていた快斗は後ろから遠慮がちに呼ぶ声に一気に思考を現実へと戻した。

見れば、ひょろりとした少年が傷だらけの姿で立っている。

 

「新一は?新一はどこだ!?」

「生きています。落ち着いてください。」

光彦は詰め寄る快斗に恐れを感じながらも、必死で言葉をはり上げた。

快斗の腰にある刀が視線に入り、

光彦は記憶がフラッシュバックしそうになるのを必死にこらえる。

 

宮司様を助けられるのは彼しかいないから、今意識を飛ばすわけにはいかないと。

 

「ゴメン。」

「大丈夫です。」

震えている光彦に快斗はようやくわれを取り戻す。

ただでさえ、侍に恐怖心のある少年だったのに。

 

「若様がしっかりしないと、宮司様が心配なされます。いつもとは少し違うようですし。」

「うん。分かってるけどダメなんだ、俺。新一のことになると、自分を失う。」

快斗はクシャリと前髪を掴んでそのばに気が抜けたように腰を下ろす。

光彦も又、彼の傍に座った。

 

しばらく間をおいて、光彦は呼吸を整える。

彼に伝えるべき言葉を正確に述べるために。

 

「この数日中にあったことをお話しします。」

 

光彦は快斗の目を見て一言一言言葉を綴った。

 

あの日、僕らは若様を見送って、隣村の祓をするため準備をしていました。

いつもの通り、必要な道具をつめこんで馬を手配しようと僕は村へとくだったんです。

村へと続く竹林はいつもと違って静まりかえっていました。

鳥の声が聞こえないのに変だと思いながら、村へ行ったら・・・・。

 

「村人が殺されていた?」

「はい。どうにか生き残った人々が駆け寄って言ったんです・・・宮司様をお守りしろと」

 

僕はそれから急いでさきほど歩いてきた竹林を戻りました。

そして、ようやく神社の前に付いた時、志保様の叫び声が聞こえたんです。

普段は冷静沈着な志保様が男達に太刀をふるっていました。

それでも、宮司様を人質に取られるとその場に力が抜けたように崩れ落ちて・・・

男達に元太君や歩美ちゃんとともに連れて行かれました。

 

光彦はその時、怖くてその場から動けなかった自分を悔やむように手を畳に打ち付ける。

快斗は彼の肩を軽く叩く。

もし、彼がそのとき行動に出ていたとしたら、現状を快斗に伝えることは出来なかったから。

 

「男達の人数と、新一がいる場所は分かるか?」

 

「はい。長髪で長身の男と肉付きいい男が数人の男に指示を出していました。

 多分、全員で17,8人だと思います。

場所は、神社の裏にある山道を登った先にある竜神のほこらです。

後ろをつけていきましたから間違いありません。」

 

 

「じゃあ、案内してくれるか?」

「はいっ。」

光彦は快斗の言葉に立ち上がって、力強い返事を返す。

先程の悔やみはそこにはなかった。

過ぎたことを悔やんでも仕方がないと、この少年は人生の中で学び取っているのだと快斗は思う。

両親の死を乗り越えた彼の強さがそこには見えた。

 

薄暗くなった龍神山を2人は進む。

大切な人を助けるために。そして、あの笑顔をもう一度みるために。

 

 

あとがき

次回は新一君、ようやく登場?

 

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