Stage3

「母さん。こっち。」

それから暫くジェリーと話をしていた雅斗だったが

ようやくやってきた母親の姿を視線に止めると大きく手を振った。

その動作を視線にとめた新一は歩く速度を速める。

 

「たっく、何処に行ってたんだ。」

「ごめんごめん。それでこちら、有希子おばさんの従姉妹だって。

えっとジェニー・峰藤さん。」

「母さんの?」

「知らないでしょうね。私も由希のことは

写真でしか見たことがないから。」

 

ほら、とジェニーが差し出した写真に新一は繭を細めた。

どうして、こんな恥ずかしい写真がまだこの世に存在するのだろうと。

そしてそれと同時に母親が従姉妹までからかっていたことに気づく。

 

「あれ。これ由希なの?かっわいーーー。」

「こら、快斗っ。返せ。」

「いいなぁ〜。今度、有希子さんに頼んでまだないか聞いてみよう。」

「んなことしたらぶっ殺す。」

 

「父さん、母さん。ジェニーさん困ってるよ・・・。」

 

すっかり2人の世界?に入ってしまった彼らを呼び戻すことができるのは

おそらくこの息子や娘達くらいだろう。

そんな様子の2人に、ジェニーは有希子と優作もここまでではないが

TPOをわきまえずにいたことを思い出し、

彼らに気づかれないように口に手を当てて又クスクスと笑った。

 

「えっと、ジェニーさんでしたっけ。」

「ジェニーでいいわ。・・・あっ、」

ようやく笑いが収まって話を始めようと思った矢先、

時計台が正午を示す鐘を打った。

その音にジェニーはあわてて時間を確認して、

まずったと言う表情をうかべる。

 

「なにかあるんですか?」

 

「ええ。まだ大丈夫とは思うわ。

ところで雅斗君には言ったんだけど、私、刑事なの。

それで由希に今回の事件で聞きたいことがあったから、

日本まで行くつもりだったんだけど、

聞けばこっちに来てるって言うじゃない?

そこでここには来るだろうと思って待っていたってわけ。」

 

「俺、じゃない・・・。私が関係しているんですか?」

 

新一は彼女が生まれつき己のことを女と思っているので

慌てて男言葉から女言葉にかえたまあ、

どっちにしろジェニーはあまり気にはとめていないようだったが。

 

「そうね・・・ねぇ旦那さん?この絵をみてどう思うかしら?」

 

“どっから話を始めようかしら?”

そう呟いてジェニーは新一の後ろにたつ彼女の旦那に話題をふった。

急に質問された快斗は少々慌てたものの、直ぐに感想を返す。

 

「さっきから思ってたけど、ぱっと見は由希に似てるかな?

でも、よく見れば由希のほうが美人だけど。」

 

「ほんとう。この絵お母さんに似てる。」

 

改めて絵を見た由佳は思わずそう言葉を漏らした。

だが、父親の言ったとおり母のほうが遙かに綺麗だと

由佳もまた感じてしまう。

 

「素直な感想ね。そう、今回の事件はあの蒼い瞳を狙った犯行。

そこで由希、優作さんから聞いたことがあるんじゃない?

貴女の家の血を。」

 

 

「ハプスブルグ家の血ですよね。」

 

 

 

「やっぱり知っていたのね?貴女の器量を見込んで先に言っておくわ。

今回の事件の最終目的は貴女の瞳よ。」

 

ゾッとするような一言をジェニー刑事は笑顔で述べた。

屈託のない、まるで答えを発表するのを

心待ちにしていたような子どものように。

そして、30代後半の彼女は年相応の顔つきのはずなのに

なぜかその笑顔がしっくり似合っていた。

 

「母さんの蒼の瞳が日本人の物じゃないとは分かっていたけど、

まさかこんな名家の血筋とわね。

っていうか俺もその血筋にはいるのか。」

 

「そうか?でも100年以上前に滅んだ貴族だから少なくとも

6、7代前の親戚ってことだろ?なんでも22代さかのぼれば

日本人はみんな親戚になるらしいから、そう考えれば

ハプスブルグ家の血筋の人間なんて結構いるんじゃねーか?」

 

新一のもっともな発言に雅斗は思わず返す言葉を失ってしまった。

確かに言われてみれば、マリーアントワネットが16人兄妹だったように

今と比べれば母親が子どもを多く産んでいた時代だったのだから、

6代もくだってきたとなると膨大な人数となることは必然的だ。

 

「それにエリザベートの血筋もそれなりにあるだろう?

確かに父さんは一人っ子だけれど祖父は兄妹がいたって話しだし。」

 

「それでも、絶世の美女の血を濃く受け継いだのは貴女だった。

これを見れば分かるでしょ。エリザベートの血族のなかで

貴女ほど彼女に似ている瞳を持った人間はいなかったわ。」

 

 

「じゃあ、なんで由希にコンタクトをとったんだ?」

 

 

由希とジェニーの話を暫く聞いていた快斗だったが、

先ほどから頭に引っかかっていた一言を思わず口に出した。

もちろんその表情は険しい。

 

「そうね、犯人が由希を見つけられる可能性なんて殆どゼロ。

それに刑事である私が近づいたらそれこそ彼女が

目的の人物ですって示しているようなもの。

さて、それでも彼女に近づく必要があったのは何故だと思う?」

 

「・・・犯人が警察よりも先に母さんのことに気づいていたから。」

 

ジェニーの問いに答えたのは、ずっと黙り込んでいた悠斗だった。

その瞳は、母と同じく探偵の目つき。

 

「当たりよ。さすがは噂の名探偵。彼の言うとおり

私たち警察よりも先に犯人は貴女を見つけていたわ。

先日、ようやく犯人の目撃者が出たの。それで犯人が

入っていったという建物を調べたら貴女の写真が出てきたわ。

そしてそこにはハプスブルグ王家の血族について調べてあったわ。

そして日記のようなものも発見された。日付は3年前から

始まっていて、その日から血族を調べ始めたみたいだったわ。」

 

「じゃあ、なぜ目的が分かっているのに他者を殺害するのかしら。」

「由梨ちゃん。分かっていて質問するのね?」

「いいえ。ただ警察の判断を聞きたいだけ。」

 

おおかたの事情について話し終えたジェニー刑事に

由梨は質問を行ったが、一通りのやり取りで由梨の力量を理解した

ジェニー刑事は思わずそう返してしまう。

 

知っていて聞く。

 

考えてみればこの家族はどうも先ほどからその繰り返し。

答えなど求めてはいない。そう考え方を見極めているのだ。

それは、これから起こるであろう大事な人物に迫る殺人を

防ぐことができるかどうか見極めたいから。

ジェニーもこの国では腕の知れた刑事。

だからこそ、彼らのそんなもくろみは分かっていた。

それでもどことなく余裕めいた口調はやはりレベルの違いを実感させる。

 

「貴女の考えているとおり。殺人を楽しんでいるのよ。

被害者を由希と思いこみながらね。

そして、今頃その殺人が始まったのも、

最近になってようやく由希の事を知ったから。」

 

「じゃあ、最後にもう1つだけ言わせて下さい。」

 

「えっと、由佳ちゃんだっけ?どうぞ。」

 

[お母さんに何かあったら・・分かってますよね?]

 

流ちょうな由佳のドイツ語に、様々な凶悪犯と向き合ってきた

ジェニーでさえ寒気が走った。その気配ただの子どもの物ではない。

まるで、死ととなりあわせに生きてきた人間のように。もちろん人前で

そんな雰囲気を作った由佳にたまらず由希は規制をかけた。

 

「おい、由佳っ。」

 

「あたりまえでしょ?だってコンタクトをとったからには

それなりのメリットが私たちにもないとね。

まあ、あんまり期待はしていないけど。」

 

「分かったわ。それともう一つ。犯人はこの国の者のことは確かだから、

事件についての会話は英語か日本語にして頂戴。

警察でも英語でしか会話を行っていない。

まあ、英語も分かる可能性は大きいだろうけれど、

血縁者を調べ上げるのに3年も掛かっていた犯人だから

おそらく教養は乏しいはずよ。」

 

自信を持ってそう答える彼女の言葉を

由佳はなかなか信用することが出来ずにいた。

だが、ドイツ語よりは英語。

英語よりは日本語の方がばれにくい。

それならやはり、この言い分に従うべきではないだろうか?

 

そこまで考えていると、横から大きな声が掛かる。

 

-----GENNEY detective.

ジェニー刑事

 

-----It understands. Will already time? Going soon.

わかってる。もう時間なんでしょう?直ぐに行くわ。

 

-----Its report. It slowly enjoys Vienna till then.

 However, do not remove the contact. Moreover

それじゃあ、また連絡するわ。

それまではゆっくりとウィーンを楽しんでね。

でも、そのコンタクトは外さないこと。またね。

 

 

ジェニーはそう6人に告げると足早に何処かへ行ってしまった。

 

-------------狙われてるっていわれたやつが、

ゆっくりすごせるわけないだろう

 

残された6人の思ったことはおそらく同じだったにちがいないだろう。

 

 

〜あとがき〜

新一君が絶世の美女の子孫ってことを書きたくて

始めたような話だったので、ようやく出せて一安心。

エリザベートはオーストリアの歴史上で一番の美女だったらしいです。

 

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