Stage5 「今頃あいつら何してるかな?」 「もうパーティに行ったんじゃない?何。やっぱり心配?」 「あたりまえだろ。」 クルーザーの先頭付近に立ちながら新一はフーとため息をついた。 夕焼けの美しドナウ川も、髪を揺らす風も、新一の興味を引くことは出来ない。 頭にあるのは子どものことだけ。 母親となった以上それはしかたのないことなのだが、 快斗としては少し寂しい物がある。 「新一。折角だから今の時間を楽しもうよ?じゃないと子ども達に失礼だよ。 それに新一だって嫌いだろ。心配されるの。」 「・・・・そうだよな。心配したってはじまんねーし。今を楽しむか?」 「そうそう。それでは早速・・・。」 スカッ 快斗がそう言って新一の腰に手を回そうとした瞬間、 偶然なのか故意なのか新一はその手をすらりと抜ける。 「何してんだ快斗。食事しに行こうぜ。 さっき船長が準備できたって行ってたし。」 「・・・うん。」 返事をしながら快斗は行き場をなくした手を見るのだった。 ・・・・・ ちなみにクルーザーはかなりの大きさで、 各国の金持ちらしき装いをした人々がざっと20人ほど乗っている。 小さな子どももいれば、老夫婦もいて、国籍は皆殆どバラバラだった。 それにさすが、高級クルーズだけあって料理の種類は豊富で質も良い。 まあ、快斗から言わせれば魚がなければなおよしらしいが。 「最近は若いカップルも多いよな。」 「さすがに日本人はいないけど、ヨーロッパの景気は日本ほど悪くないからね。」 「おまけに海外とあって、T.P.Oなんてねーし。」 新一の言うとおり、あっちでもこっちでも年齢層問わず熱々のカップルが多い。 海外では、キスなんて日常茶飯事のあいさつのようなものだ。 だが、こんな事を言っている2人も端から見れば充分熱々だった。 「快斗。これうまいぞ。喰ってみろよ。」 「んっ・・・うん。おいしいじゃん。」 「味覚えて、かえろっかな。」 「まぁ、新一の料理ほどじゃないけどね。」 「ば〜か。快斗の料理の方が上手いだろ。」 この会話をバカップルと言わずして何という。 きっと、子ども達が来なかったのは仕事を抜きにしても賢明な判断であろう。 ・・・・・・・・・・・ さて、クルーズのパーティも終盤を迎え、 ゆっくりと2人でダンスを楽しんでいたころ、 新一の事件体質が目を覚ました。 ------Do not move. Keep quiet. 『動くな。静かにしろ。』 すさまじい拳銃の音と共に入ってきたのは武装した男5人。 どう見ても金目当ての強盗団に客はパニックを起こす。 そんな客にもう一度、警報がてらに男達は拳銃を天井に向けて放つ。 その銃弾を浴びて天井のシャンデリアが音を立てて砕け散った。 ------Put out a valuable thing and the cellular phone. Only the life helps if it does so. Make
it early. 『金目の物と携帯電話を出せ、そうすれば命だけは助けてやる。早くしろ。』 男達はおきまりの台詞を吐き捨てて一人一人に金や装飾品、 それに携帯電話を要求する。 おそらく計画的犯行なのだろう。その行動には無駄がない。 どう見てもプロの強盗団だ。 おまけにここは海の上。それに発煙筒なども海に投げ捨てられたようで 警察に助けを求めることは不可能。 新一は快斗の後ろに隠されながらも淡々とこれからの動きを考えていた。 このまま彼らに立ち去られてしまうのは探偵としてのプライドが許さない。 「新一。よけいなことは考えるなよ。」 そんな彼の考え方を読んだのか快斗はそっと新一に耳打ちをする。 だが、その声は強盗団の耳にも届いていた。 勿論言葉は分かっていないようだが“Hold your tongue!(黙れ)”と 拳銃を突きつけられたその瞬間、強盗団と新一の瞳が交わる。 その男の瞳は、特徴的な灰色だった。灰色の瞳の強盗団。 過去、父親のファイルで見たことがあった。 通称R・A。確か最後の決め言葉は・・・。 ------Revival from among ash・・・。 『灰からの復活・・・。』 ------Do you know us? 『俺達を知っているのか?』 思わず呟いてしまった新一の言葉を男は逃すことはなかった。 途端に目が細められ新一の腕にゴツゴツとした男の手が伸ばされる。 ------Do not touch. She does not know anything. 『触るな。彼女は何も知らない。』 ------However, she certainly knew our words. The
pupil in it. You are not a person of ordinary
ability. You have eyes
which work in the same field as us. 『しかし、俺達の言葉を知っていた。それにその瞳。おまえらただ者じゃないな。 そうだな貴様にいたっては俺達と同じ道を行く者の目だ。』 快斗の瞳をジッと楽しげに見ると ニヤリとその男はそう言って口元をゆがませた。 会話の成り行きを見守っていた残りの強盗団のメンバー達だったが 話しがあまりにも長いため不審に思ったのか、数人がこちらへとやってくる。 ------What is spoken? 『何を話しているんだ?』 ------I will handle her to the hostage. 『彼女を人質にしようと思ってね。』 ------Do not joke!! 『ふざけんな!!』 男の言葉に快斗は新一をかばうようにして立つと、 銃口を突きつけられながらもひるまずそう叫んだ。 その態度に男はますます上機嫌となる。 -----She is sure to agree. She is a famous detective in
Japan. 『彼女にも依存はないだろう?結構日本じゃ有名な探偵だからな。』 -----Yuya 『優也・・・』 ------Are you a Japanese? 『日本人か?』 その名前と体つきは周りの者達とは大きくかけ離れている。 筋肉の少ない腕、ひょろりとした体、 身長は周りの者達と頭一個分はちがうであろうか。 日本人らしき人物は目でかるく頷いた。 「まあね。それより依存はないだろう?これで他の人々の命は保証されるんだ。 まあ、彼は依存、おおありだろうけど」 ------Yuya. Don’t speak Japanese. We
don’t understand. 『優也、日本語で話すな。オレ達が分からないだろうっ』 -----Boss. Wait a minute , please. I
will finish soon. 『ちょっと待って下さい、ボス。もう終わりますから。』 日本語が理解できるはずがない彼らは優也が人質と日本語で会話をすることで 裏切るのではないかと非難の視線を向けるが、その心配はないとでも言うように 『R・A』の刺青をしっかりとボスに向かって見せた。 「彼を救いたいなら君の行動は必要だと思うよ。 だってボスにあんな口を利いたんだからね。」 「冗談じゃねー。少しでもこいつ触れて見ろ、そこで息の根を止めてやる。」 「快斗!!俺が行く。」 カチャリと快斗の叫び声と共に、安全装置が外された。 この距離ではさすがの快斗もかわすことは愚か即死は間違いない。 そんなことがあってはたまらないと、新一は優也と呼ばれた男に近づいた。 快斗はそれを止めようとするが、新一はそれを許さなかった。 「さすがは名探偵。それじゃあ彼女はお預かりするよ。」 「ちっくしょっ。」 「快斗、また・・・あとでな。」 新一はきわめて冷静に言葉をつなぐと、 客室の方へと優也に腕を捕まれて、キャビンのほうへと歩き出す。 絶対生き残れ。 快斗と新一は別れ際にそう視線を交わした。 〜あとがき〜 事件ものって、難しいですね。 なんか、もっと緊迫感を出したかったのに・・・。 精進せねば・・・・精進せねば・・・・。 |