Stage

 

[おまえ、ドイツ語は分かるか?]

[分かるけど?でも、犯人とは話す気ないね。]

[心配するな、俺は強盗団の者ではない。もちろん優也も。]

 

危険人物と判断された快斗は甲板で見張りの男と2人っきりとなっていた。

手には手錠がはめられ、甲板の柱にしっかりと固定されている。

 

男はちょうど快斗と向かい合わせに柱の反対側に座って、

持っている拳銃を手の中で遊ばせていた。

見た目は、60間際だが、筋肉はまだしっかりと腕についている。

 

[それが本当とは限らないだろ?]

[クウォール・デイビット。ドイツ人でインターポールの1人だ。]

 

視線を合わせることなく会話をすることは相手の気持ちを読みにくくする。

それはもちろん自分の気持ちも相手に伝わっていないと言うメリットがあるのだが、

相手の心情がはかれないと言うデメリットもあるのだ。

 

 

[君が初代のKID、盗一の息子か・・・。]

[何を言ってるんだ?]

 

3代目である雅斗がKIDであるということは、

FBITOPクラス、2,3人しか知らないはずである。

それなのだから、FBIとの関係をインターポールが持っていたとしても、

雅斗ならばまだしも、盗一や快斗のことを知るはずがない。

 

盗一と快斗がKIDだったことを知っているのは新一とその両親。

そして、母親と哀、阿笠くらいだ。

 

[私が警察として最盛期を迎えていた頃、彼と何度か対決したことがあったんだよ。

 もちろん、盗一と彼の奥さん、そして君とも何度か食事したこともある。

 君はまだ小さくて覚えてはいなかっただろうけどね。]

 

[信用できないし、父さんはKIDじゃない。]

 

[まあ、好きに思ってくれてかまわない。

ああ、それと、勘違いしているようだったら困るので先に言っておくが、

インターポールでKIDのことは知られていないんだよ。

FBIから理由も言われずにKIDをとらえるなと言われてね、上も捜査に動けない。

しょせんは国際警察組織も、アメリカには敵わないのだろうさ。]

 

皮肉じみた言い方をしながら、男は殺気を消すことなく銃を向けたままだった。

それが、演技なのか本気なのか分からないが・・・。

 

彼は、まるで快斗が聞いていてもいなくてもかまわないかのように話を続ける。

 

[盗一は大した男だったよ。何度か対決して一度も勝ったことはなかった。

 そうそう、今回話題になっているAngle tearsを彼が盗んだときもひと騒動あったな。

 私も警察なのに、彼に協力したんだよ。ちょうど今みたいにね。知ってたかい?]

 

[だ〜か〜ら、親父は・・・。]

 

[ああ、悪い悪い。まあ、こんな話しはいつでもできるな。2代目KID。]

 

快斗はデイビットの言葉にぴくりと一瞬反応を示す。

その僅かな動作にデイビットは気づいたらしく、少し得意げに笑うのが聞こえた。

 

いったい、この男はどこまで何を知っているのだろう?

 

[そろそろ、この組織の話しをはじめようか?君がいるなら我々も心強い。

 奥さんを無事に救出したいなら信じるしかないんじゃないかい?]

[狸ジジイ。]

 

[本当に君はお父さんとそっくりだよ。協力したときも同じ事を言われたなぁ〜。

 いかん、いかん。年を取ると、どうも思い出に浸りやすくなってしまう。

 それじゃあ、組織の話しに戻るぞ。

この強盗団RAは最近発足したばかりでなかなかの切れ者が揃っている。

今回、犯罪を行っているのはかなりの下っ端だ。

 ちなみに君たちと最初に言葉を交わしたのが今回の作戦のボス。

 そして銃口を向けていた2人の男はやり手の暗殺者。

 それと計画を組み立てる男がもう1人操舵室にいる。あとは雑魚が20人ほどだ。]

 

[じゃあ、主要メンバーは4人か・・・。]

[ああ、どうだい。信じてもらえたかな?]

 

全てを話した彼だが信じることは快斗には不可能だった。

だが、利用する価値はあると判断してとりあえず頷いておく。

その仕草に彼は軽く苦笑しただけだった。

まだ信用されていないことにおそらく感づいたのだろう。

 

このように普通に会話をしている2人だが

その表情はほとんどお互い出してはいなかった。

強盗団員に気づかれないための策士・・・。

 

[さて、俺はそろそろ行動に出たいのだけれど?]

 

強盗団の動きを横目で見ながら、快斗は後ろにいる彼に初めて自分から声をかける。

ここに連れてこられて少なくとも1時間はたっているはずだ。

僅かな時間とはいえ、

新一をやはりあんな危ない奴らと一緒にさせておくのは気が気ではない。

 

[ああ、分かっているよ。武器は持っているのか?]

[もちろん。]

 

そう言って快斗は視線で胸元を示した。それにデイビットは満足げに頷く。

そしてその時快斗の手を見て驚く。

 

いつのまにか快斗を拘束していた手錠は外れていた。

 

[さすがは2代目と言っておこうか・・・。]

[違うって言ってるだろ。さてと、足手まといになるなよ。おっさん。]

[誰にものをいっているんだ?若造が。]

 

カシャン

 

快斗の手の中に持っていた手錠が落ちたのが出動開始の合図だった。

2人は素早く左右に散ると監視をしている雑魚どもを

ざっと20人を拳銃を使って打ち落とした。

とはいっても2人が使っているのは麻酔銃なのだから死ぬことはない。

 

 

雑魚と言えど一応はその手の道具になれた者達。

相手の本物の銃弾に銃傷は次第に数を増やしていく。

 

[大丈夫か?おっさん。]

[俺のことは気にするな。はやく内部へ行け。外はまかせろ。]

 

いくら数は減ったとはいえ、いまだに10人ほどが残っている。

快斗はその事が気に掛かり、中にはいるのを拒んだ。

 

[若造!!早くしろ。きっと中はもっとやばい。

プロ4人。雑魚10人より大変だろう?]

[分かったよ。]

 

これ以上長居するのはおそらく彼への冒涜に当たる。

そう判断した快斗の行動は素早かった。

 

あとがき

盗一パパとあの宝石もいろいろと関わりがあるんです。

なんか、書くたびにスケールがでかくなっていく気がします・・・。

 

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