Stage

オークション参加者の波にのってやってきた会場は地下の3階にあった。

部屋の作りは階段式になっていて、品物ははるか下の方に展示してある。

用意された机の上には最新のコンピュータがずらりと並んでいた。

 

「どうやら、入り口はあそこだけみたいね。」

「図面通りだな。」

 

ざっと辺りを見渡してみても、窓のような物はひとつもない。

おそらく、防音と外部への情報が漏れないように考えられて作られたのであろう。

そうなると、この建物は闇オークションのために造られたと考える方が打倒のようだ。

 

雅斗はコツコツと階段をくだっていき、

硬質なガラスの入れ物に入れられた今回の獲物を見つめた。

周りには、同じようにして古代エジプトの考古学的に貴重な品物から

現代の最新鋭の生物兵器まで展示してある。

 

「さすがね、このガラスは物理的な力じゃ壊すのは不可能よ。」

「物理的な力では・・・だけどな。」

 

コンコンとガラスをつっついて雅斗は子どものように瞳を輝かせた。

絶対に入れない場所。絶対に盗れない物。

それを成し遂げたときの快感は悪いくせになるなぁ、と

そんな雅斗の姿を見ながら由佳は思わずにはいられなかった。

 

「確か会場はこっちね。」

「由梨。やっぱりまずいんじゃねーか?裏組織の集まる場所だぞ。」

「自分の身くらい自分で守れるわ。今回の獲物は間接的ではあるけど

お母さんにも拘わることよ。万が一、雅斗兄さんが失敗したとき、

動けるのは私と悠斗だけなんだから。」

 

発信器をたどって歩む由梨に迷いはなかった。

 

建物の構造からして、今回の仕事は容易なものではないのだ。

そして、それに追い打ちを掛けるように今回の品物の重要性。

 

それから、暫く階段をくだって入り口から、

雅斗達に気づかれぬよう2人はオークション会場に入った。

そして、懐中時計を胸元から取り出し時間を確認する。

 

「あと、5分ね。」

「始まるぞ。」

 

目下に見えるメインステージにフェロモンをまき散らしたような

女性を2人引き連れて、今回のオークションの主催者が挨拶を始めた。

 

そして、かんたんな概要の説明がおわると入り口に厳重なロックが備え付けられて、

一品目の“天使の涙”が競売にかけられる。

どうやら、“堕天使の涙”の損失はまだばれていないらしい。

 

一人の女性が“天使の瞳”を笑顔とともに参加者全員に見えるよう高々と掲げた。

その瞬間、悠斗達によってセットされていたタイマーが作動する。

 

フッと消えた電気と共に、女性の絹を切り裂くような叫び声が上がった。

その声の出所は、ステージ中央。

ちょうど、“天使の涙”を女性が持って立っていた辺りだ。

 

「成功したみたいね。」

「でも、問題はこれからだ。」

 

最新鋭のこのビルは、すぐさま非常電気が補給されて

一挙に暗かった会場に明かりが灯る。その時間僅か数十秒。

完全に封鎖された入り口をこの間に逃げだすことは不可能だ。

 

[あそこだ、逃がすなっ。]

 

会場中がざわめく中、白い怪盗は締め切られた入り口の近くに立っていた。

 

「悠斗、行くわよ。」

「ああ。」

 

取り出した拳銃の作動を確認して、銃撃戦となっている上部の方へ2人は足を向ける。

会場のお客は、彼らとは逆に

ステージの方へ流れ弾が当たらないようにと避難していた。

 

おそらく、見あたらない由佳はどこかで逃げ出す策を講じているのだろう。

 

[お前が噂の怪盗KIDか。]

[このような、場所まで名が知れているとは光栄ですね。]

[余裕でいられるのも今のうちだ。]

 

“天使の涙”はしっかりと箱に収まっているために傷つくことはない。

そう、判断した彼らの攻撃は無差別きわまりなかった。

日本警察のように、殺さないなど念頭にあるはずがないのだ。

 

「たっく、無駄玉使いすぎだってーの。」

 

それをよけながらも、雅斗は由佳からの連絡を今か今かと待っていた。

ここの細かい構造は図面で手に入れられなかったのが今回唯一の失策だ。

だが、由佳に任せておけばあと数分しない打ちに脱出口を開いてくれる。

 

 

[よってたかって、それでも大人なのかしら。]

[誰だ、貴様。]

[通りすがりの子どもだよ。おじさん。]

 

振り向いた瞬間に、子どもらしい無邪気な声が聞こえる。

しかし、それと共に放たれたのは催眠針。

この数を、数分であっても彼一人では対処できないと判断したうえでの行動だった。

 

悠斗も同じように周りの人間を片っ端に眠らせていく。

 

「悪いな。」

「そう思うなら、もう少し計画を立ててから行って。」

「てか、この仮面、恥ずかしすぎる。」

 

悠斗は先日、縁日で購入した“ひょっとこ”を軽く持ち上げて、ため息をつく。

どうせなら、仮面舞踏会のような洒落た物が良かったと思いながら。

 

「しょうがないじゃない、それしかなかったんだから。」

 

3人がお互いに肩を向け立ち、その周りを大人が50人ほど囲んでいる。

もちろん、向けられている銃からは今にも発砲されそうだ。

 

 

 

[誰だかわからんが、ここで終わりだ。]

[そう、うまくはいかないものよ。]

 

カチャリと安全装置がおろされて、拳銃に指が掛かった瞬間、

すさまじい音をたてて正面の扉がうち砕かれた。

そして、信じられないことにそこに立っていたのは、若い女性。

 

[なっ、最新鋭の扉が壊されただと。]

[機械に頼りすぎたことが今回の過失ね。行くわよ、怪盗さん方。]

 

サングラスを掛けているために表情は確認できなかったが、

口元だけがあやしく微笑んでいた。

 

 

素早い身のこなしで去っていく彼らを追跡できる者などいるはずがないのだ。

 

 

「ええ、彼らは盗みに成功したわ。私たちのシナリオどうりね。」

 

彼らが去っあとの慌ただしい会場で

壁により掛かって携帯電話片手に微笑む女性がいた。

 

◇あとがき◇

ようやく、KID話終了。次回はどうにか家族全員集合です。

まあ、ここまでは序章みたいなものなんですけど。

 

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