Stage10

 

「お母さん達、帰ってるみたいね。」

 

ロビーにカギを引き取りにいって手ぶらで帰ってきた雅斗を見て、

由佳は少し驚いたように席を立った。

 

「クルーズなんだからそんなものじゃないのか?」

「それもそうよね。」

 

古風な作りとなっているエレベーターの針が半円をゆっくりと周り、

1の数字にその針がさしかかったところで、扉が開く。

4人はそれに乗り込むと、特に話すこともないのか、

ジッと点滅しながら増えてゆく数字を眺めていた。

 

「ただいま。」

「おかえり、遅かったな。」

仕事のあとに見る家族というのはどこかホッとするものだと4人は同時に感じていた。

先代のKIDを行っていた父親も母親の存在にきっと癒されていたのだろう。

 

一人一人、帰宅の挨拶を快斗にして

新一がTVを見ているであろうリビングへと向かう。

 

「おかえり、由梨。楽しかったか?」

「・・・・。」

 

 

ポス

 

 

「由梨?」

 

その光景に、先を進んでいた兄弟達が驚いたように振り返った。

あれほど父親には甘えようとしない由梨が、今まさに父親に抱きついているのだから。

 

もちろん、一番驚いているのは快斗だ。

新一に似てさらに隣の哀ちゃんの性格まで受け継いでしまった次女は、

甘えることを知らないのではないか、というくらい

弱みを誰にも見せないタイプだった。

 

さらに、母親には時に甘えるものの父親に自分からそういう事をしたためしがない。

 

 

「由梨?何かあったのか?」

「何かあったのは、お父さんでしょ?」

 

少し拗ねた表情をして、由梨は父親を見上げた。

 

「気づかないとでも思った?凄く哀しそうな顔してる。」

「由梨・・・。」

「それが・・・」

 

 

ゴスッ

 

 

「辛気くさいからシャキッとしたら?」

 

思わず抱きしめようとした快斗に飛んできたのは母親譲りの蹴りだった。

それでも、顔がほんのり紅いのはみんなの位置から確認できて・・・。

 

「由梨らしいな。」

「母さん。」

 

玄関先で繰り広げられていた会話にクスクスと笑いながら新一が部屋から出てくる。

その笑顔を見て、悠斗もまた同じように笑った。

 

「由梨にはかなわないよ。俺も父さんの様子がいつもと違うのは分かったけど、

とっさにどうすればいいのか分からなかった。」

「それは、俺も一緒だぜ。

由梨らしくてそれでいて、一番いい方法だ。特に最後の蹴り。」

「確かに・・・。」

 

見れば、由佳が由梨をぎゅーと抱きしめていた。

おそらく、妹のそんな行為に父親同様、絆されてしまったのであろう。

当の由梨はすこし、拗ねた表情をしている。

 

それを見守る快斗の雰囲気はいつものように戻っていて、

新一はホッと誰にも気づかれないようにため息をついた。

 

その瞬間、新一の携帯が無機質な音をたてて鳴り響く。

 

 

「はい。黒羽です。」

 

Hello. Angle tears.

-------こんにちは、天使の涙

 

それが、新しい事件の始まりだった。

 

 

 

 

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「母さん、誰から?」

「ちょっとやり残してきた仕事の担当者からだ。」

 

会話は小声で行ったためか、隣にいても由佳達の方に意識を向けていた悠斗には

聞こえていなかったようで、新一はホッと胸をなで下ろした。

 

勘のいい子ども達のことだ。

ここで、会話の内容を聞かれてしまっていては、

思うように行動することは不可能となるだろう。

 

まあ、それは自分を心配するが故の行動なのだからなおさら、困ってしまう。

 

「悠斗。ちょっとロビーに届け物があるらしいから行ってくるな。」

「あ、うん。」

新一はかるく上着を羽織ると、目的のものを受け取るために部屋をあとにした。

 

 

〜あとがき〜

今回は皆様の反応が一番怖い作品かも知れません。

私的にはやっぱ新一と快斗の話しがスキだから、

由梨ちゃんに元気づけられるってのは・・・う〜ん、微妙。

でも、展開的にそんな感じにしたかったんです、許してくださいっ。

 

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