Stage12

指定された場所はウィーンから特急で約2時間の

オーバーエステライヒ州のリンツという州都だった。

 

リンツとはウィーン、グラーツに次ぐ大都市でありオーストリア第一の工業都市でもある。

工業都市と聞くとどうも汚染された河川やよどんだ空気を思い浮かべるかも知れないが、

リンツはヨーロッパを代表する大河川ドナウが流れ、

古い歴史、自然、それに現代科学とがマッチしているため、本当に美しい街である。

そして、ここの見所はなんといっても丘の上にそびえ立つリンツ城であろう。

 

「帰りによれればいいな。」

おとぎ話に出てくるような城を遠目に見ながら、はしゃぐ由佳の姿を思い浮かべる。

今日の埋め合わせにはぴったりの場所だ。

 

特急を降りた新一は早速、指定された住所へと向かう。

そこは、閑静な住宅街の中にある、周りよりも大きめの邸宅だった。

例えれば、新一の自宅のような感じであろう。

 

「こんなところに呼び出して、どういうつもりなんだ。」

 

まさか、犯人がわざわざ家に新一を招待するはずがない。

とすれば、考える可能性はひとつだけ。

「ここで、何かが起きるのか・・・。」

 

 

新一はとりあえず、その重厚な扉をノックした。

 

 

[どちら様ですか?]

でてきたのは、ひとりの華奢な体つきをした20代の女性だった。

洋服を上品に着こなしているところから、ある程度の金の持ち主であるようだ。

新一は失礼のない程度に女性を観察すると、とりあえずありきたりな言葉を返した。

 

[こちらのほうにくるよう、頼まれたのですが。]

[我が家にですか?]

[はい、こちらで昨晩、パーティが行われましたよね。]

[えっ、なぜそれを。]

 

彼女の口からただよう酒の匂いに、扉の隙間から見える彼女のものとは思えない数足の靴。

それに、表に出された大量のゴミとをあわせて考えれば簡単に予想できる範囲だ。

だが、新一はそのことをあえて口に出すことなく、驚く女性に柔らかに微笑んだ。

 

[あなた、いったい・・・・。]

[ルーシー。大変よ、ジョーンズが・・・ジョーンズが寝室で・・・。]

 

小柄なカールのかかった金髪の女性の叫びに近い声と共に、新一の体は動いていた。

 

 

 

[いったい何事だ。]

[おい、この女は誰だ。]

先程の女性の叫び声に各寝室から2人の男が飛び出してくる。

小太りのめがねをかけた男と長身でタバコを吹かしている男。

新一は2人の前を通り過ぎる際に、ある程度の特徴を頭にたたき込んでから、

開け放たれた部屋へと飛び込んだ。

 

[ちょっと、誰なんですか。]

[現場へ入らないでください。]

[現場って。]

ルーシーと呼ばれたこの家の主を規制すると、

新一はゆっくりとベッドに眠る男性に近づき脈を首もとで確認した。

 

 

[残念ながらお亡くなりです。警察を呼んでください。]

[誰なんだ、君は!!]

[いいから、呼んでください!!]

ドスの利いた新一の声に逆らえる者は誰ひとりとして存在しなかった。

 

 

しばらくして、やってきたのは新一と顔見知りの刑事だった。

ここまで、管轄なのか?と疑惑の視線を向けるとジェニーは緩やかに微笑む。

 

「ちょうどこちらへ来ていたのよ。これでも、名の知れた刑事だからね。」

 

新一の微妙な表情の変化を速急に感じ取り、その意味を理解して必要な答えだけを返す。

彼女のそんな仕草に、新一はジェニーの“名の知れた刑事”という言葉も

自惚れではないなと確信した。

 

彼女はおそらくこの国で随一の刑事なのであろう。

 

 

[ジェニー刑事。日本語での会話はお控えいただきたい。]

[すみません、警部。]

 

目暮警部を連想させる、小太りの50代半ばの男性。

よくよく考えてみれば、ジェニーも又佐藤刑事に通じるところがある。

ドイツ語でジェニー刑事に注意を入れた警部を観察しながら

新一はのんきにもそんなことを思っていた。

 

そんな、新一の視線に気づいたのか、

目暮似の警部は新一へと視線を合わせて右手を差し出してくる。

にこやかな、社交辞令と共に。

 

[君が噂の探偵だね。昨日の事件、お見事だったよ。]

[情報が早いですね。]

[いや、東洋人の美男美女夫婦が協力したと言うことだけ聞いていて、

もしかしたら君じゃないかと思ったんだよ。]

 

[警部、ナンパは後にしてください。それに彼女は私の大事な親戚なんですから。]

[すまない。あまりにも綺麗な人を見るとついな。

それで、今回は事故死だからとりあえず君の出番はないな。]

 

鑑識から結果を受け取った警部はそれにじっくりと目を通したあと、

関係者ではないはずの新一にそれを渡した。

その行動に驚きを隠せない新一を見て、警部はウインクを軽くよこす。

 

[信用してるって事よ。由希。]

 

よこで、ジェニーがクスクスと笑いながらそう新一に耳打ちした。

 

鑑識の結果は一酸化炭素による中毒死だった。

この家は随分と古い造りで、暖炉が各部屋に設けてあった。

 

確かに、暖炉を焚きっぱなしであっては一酸化炭素中毒になってもなんら不思議ではない。

だが、新一は長年の勘から、これがただの事故死では無い気がしてならなかった。

もしかしたら、マリオネットの『ゲーム』という単語が頭をよぎったせいかもしれないが。

 

あとがき

登場人物多数!!事件物にすると人物が増えるので嫌いだなぁ・・・。

 

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