Stage14

[由希!!]

[なんで、ルーシー。あなたは昔からこういうトリック苦手だったのに。

いつも、真面目で嘘を付かなかったでしょ。]

[ふふ、ある人が教えてくれたの。完璧犯罪を行い、

それにつられてくる探偵を殺せば、大金をくれるってね。

私の予定じゃ、この謎を解けなくて、あきらめのつかないまま、

警察が帰ってからもここに残るであろう彼女を同じようにして殺す。

うまくいかないものね。なかなか。成功してれば、この家も売却せずにすんだのに。]

[それは、誰だ?]

 

新一は拳銃をつきつけられながらも、おそらくこれを仕掛けたであろう人物が

マリオネットであることを瞬時に悟り、返答を求めた。

 

[名前は知らないは・・・ただ、おもしろいことにその人物はね・・・・・]

 

ズキューン

 

彼女がその続きを述べようとしたのと同時だった。

ジェーンが発砲したのは。

 

[ジェーン刑事!!]

 

最後の方は、おそらく新一にやっと聞こえるような大きさだったため、

彼らには届かなかったのであろう。

だが、もう少しでつかめたであろうマリオネットの正体を聞きそびれたことに、

新一は思わず講義の声を上げる。

 

[怒らないで、由希。ここは日本じゃないの。

犯人が危険な行動に出ればそれを阻止するのが私たちの役目。

私も、本当は殺したくはなかったわ。でも、由希。貴女は私にとって大切な人物なの。]

[うむ、そうだ。]

 

新一を守るための発砲。そう、ここは日本ではない。

抵抗した者には容赦なく制裁が加えられるのだ。

新一もそう言われてしまっては、二の句を繋ぐことなど出来るはずもなかった。

 

[ルーシー!!なんで、なんであなたが死ぬのよ。]

例え恨まれていたとしても、大切な親友であったことに変わりはない。

リサは大声を上げて泣き出すと、大量の血が滴り落ちる彼女の体を強く抱きしめた。

だんだんと冷たくなっていくからだに、リサはさらに声を上げて泣く。

 

[死ぬのが私だったらよかったのに!!!]

[リサさん。落ち着いてください。]

 

ジェーンは、まるで何事もなかったように冷淡な口調でルーシーのからだからリサを引き離した。

リサはそんな彼女の行動にまるで鬼を見るかのような視線を向ける。

 

[この、人殺し!!!]

[なんとでも言って下さい。私は警察。市民を守るためならなんと言われても構いません。]

 

ジェニーの一言にリサはまた大声を上げて子どものように泣いていた。

 

[ジェニー君、さきほどの女性探偵がいないのだが。]

ルーシーの遺体を丁重に運んで、リサを落ち着かせた後、

警部はいなくなった探偵の存在に気づくと、周りを見渡してそう呟いた。

 

[彼女は気ままな性格ですから。きっと、又あえますよ。]

警部でさえ見たことのない優しい瞳のジェニー刑事に

警部はジェニーの先程の女性を大切にしているのだと感じる。

 

[随分とお気に入りのようだね。]

[ええ、私の親戚ですから。それに・・・。]

[それに、何だね?]

[いいえ。それじゃあ、私はリサさんについていたいので。失礼いたします。]

警部はそれに二つ返事を返すと、パトカーへと乗り込む。

ジェニーはそれを見送るとリサの居る家の中へと戻っていくのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「事件は解決したけど、なんなんだこの違和感は。」

 

犯人が死亡したから?

ジェニー刑事に人殺しをさせてしまったから?

 

様々な理由を頭に思い浮かべるものの、どれも適当ではないと新一は感じていた。

 

 

ちなみに、今、新一が向かっているのはドナウ河にある定期観光船の発着所。

先程、由佳からの電話でどこにいるのかと聞かれリンツと返事をした新一に

それなら定期観光船の発着場で午後3時に落ち合おうと彼女が提案したのだ。

おそらく、来るときに見えたリンツ城でも観光する気であろう。

 

「いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないよな。」

今まで犯人に自殺されたケースは幾度か合ったが(もちろん、そのたびに落ち込んでもいた)

このような、ケースは初めてだった新一にとって、それはショックを与えるには

充分な要素を含んでいた。

 

だからといって、このままの状態ではおそらく家族に余計な心配をかけてしまうのも確かな事実。

新一はそう思い直すと、かるく手で頬をパンと叩いて気合いを入れ、

普段通りの表情で発着場のそばのベンチへと腰掛けるのだった。

 

定期観光船発着場はやはり観光のためか、きちんと整備してある船着き場だ。

パッと外見から見れば、風変わりな公園ともとれるであろう。

そばにはドナウ河の地図や解説付きの看板がデーンと立っている。

「もうそろそろか。」

新一は特にすることもなかったので、その看板に一通り目を通すことに決め、席を立つ。

 

[ねえ、君って観光客かい?]

[おい、通じるのかよドイツ語。]

[大丈夫だろう。看板に目を通してるくらいなんだからさ。]

[なるほど。お前推理力あるじゃん。]

 

新一が振り返ると、いかにもナンパ好きそうな男が2人立っていた。

まだ、20代そこらの青年はもう30を過ぎた新一にとってガキ同然だ。

だからこそ、そんな者に付き合っている暇はない。

 

「これだから、自意識過剰な奴は困るんだ。

看板見ていただけで、それが読めてるとは限らないだろう。

ただ、眺める観光客も結構いるんだし。推理としては的はずれもいいところだな。」

 

[なんて言ってるんだ。]

[俺に、中国語なんてわかるかよ。]

[日本語ですよ。]

 

日本語で一通り言いたいことを言った新一は

それを何処の国の言葉も理解できないで、中国語なんて言っている青年2人に、

今度は嫌みを交えてドイツ語で返事を返した。

これでは、プライドも何もあったものではない。

 

[う、うるせー!!!]

[ドイツ語喋れるなら、喋れよ。]

 

そして、しまいにはなぜか勝手に怒っている始末。

新一はそんな彼らの心情を理解することは出来なかったし、

それ以上に今は気分が最悪だこれ以上話していると、余計なことまで言いそうになる。

自分の中で何かが音を立てて切れかけそうになる前に、と新一は彼らから距離を取るよう離れた。

 

いちいち、こんなところで口論などしたくない。

だが、青年2人はそれを知ってか知らずか、余計に絡んでくる。

 

[おい、逃げるのかよ。]

[オレ達を誰だか知っているのか?]

 

“知るかよ。”そう言い返しそうになって新一はグッと押し黙った。

それでは、普段の自分らしくない。先程の事件が予想以上に効いているようだ。

 

[黙り込みやがって。教えてやれよ。]

[俺達の親父は国会議員だ。]

[道理で道楽息子なわけか。]

“しまった”そう思ったときには遅かった。

青年達がこの言葉に怒らないはずがないのだ。

飛んでくる蹴りをよけて、後ろから襲いかかってくる男に一発みぞおちに入れる。

 

[くそっ。]

[ざけやがって。]

腹を押さえつつも再び立ち上がった彼らは罵声をあげながら腕を振り上げる。

 

もう、ここまできたらその根性、叩き直してやる。

そう思って身構えたとき、視界がぼやけているのに気づいた。

おそらく、今し方激しく動いたせいで、カラコンがずれてしまったのだろう。

やべぇ

襲いかかって来るであろう痛みに新一は強く目を瞑った。

 

あとがき

最近、新一オンリーですね〜。

でも、次回から快斗君、登場するのでご心配なく(笑)

 

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