Stage18

もし、犯人が自分に接近していることを知ってしまったら由佳にも危害が及ぶ。

そう思って新一は先に電話を取ろうと手を伸ばしたが数秒の差で

受話器は由佳の手の中に収まってしまった。

 

 

「あっ、昨日のインターポールの人?」

 

 

由佳の第一声に相手が犯人でないことを確認して新一は安堵のため息をもらす。

どうやら、優也がようやくこのホテルを探し出したらしい。

 

「下に来てるって。お父さん達もロビーにいるみたい。」

受話器を元の位置へ戻すと由佳はルームキーを手に取った。

 

「そっか、もう午後の観光に向かう時間か・・・。」

 

時計の針を確認すれば午後1時を指していた。

その時間に自分は随分と長く睡眠をとっていたと気づかせられる。

どうりで、体がだるいはずだ。

新一はう〜んと伸びをして、まだ目覚めていない体を軽く動かした。

 

 

身支度をしてロビーへ行けば、数時間ぶりに会う面子が揃っている。

その顔には疲労感など見えなくて、

それでも一晩中、情報収集に勤しんだ事は新一にはなんとなく感じ取れた。

 

 

 

「ただいま♪新一。」

「ああ。・・・それで優也さんからは貰ったのか?」

「あ、うん。それがさぁ〜。」

快斗は言葉と共に、優也の方へと軽く視線を向ける。

新一もそれをまねして彼へと視線を向ければ、優也は困ったように頭をかいていた。

 

「まさか、又忘れたとか?」

「いや、なんか他の人に渡す物をオレ達に渡すって勘違いしたんだって。

 どこまでも抜けてるよな。」

「だから、すみませんって。で、お詫びとしては何ですが、

 今日は観光とお聞きしたんで、俺が案内します!」

「・・・だって。」

へんに張り切っている優也に快斗は肩をすくめる。

まあ、確かにこの地に慣れ親しんだ人間が一人居るのはありがたいだろう。

 

 

「じゃあ、案内は任せてそろそろ行こうぜ。」

ワンボックスのレンタカーに乗って、さっそく探索へと繰り出した。

事件があった場所は、まだ警察がウロウロしているが、快斗達は特に気にした様子もない。

優也は新一から同行の許可が出たことが嬉しいのか足取りも軽くレンタカーへと向かう。

 

 

だが・・・

 

「・・・え?」

 

由梨は一瞬、我が目を疑った。

ある女性が彼の前を横切った瞬間彼の表情が豹変したのだ。

今までの好意的な明るい表情でなく・・・それは彼女が何度も殺人事件の犯人を通して見てきた

獲物を見定めるような厭らしい眼差し・・・。

 

「優也さん?」

「えっ、なんだい由梨ちゃん。」

「・・・いえ、何でもないわ。」

 

こちらを見下ろす表情に先程のゆがんだ面影はもはやない。

いつもと変わらない笑顔。

 

 

でも・・・私は彼に一度も名前を教えていない。

 

 

「今日はとびっきりの場所を紹介するから。由梨ちゃんも楽しめるはずだよ。」

「ええ、ありがとう。」

優也は革ジャンのポケットに手をつっこむと、

ワンボックスカーの一番後ろの席へと乗り込んだ。

 

 

由梨の心配をよそに、その日はなんの問題もなく、ショッピングモールを廻ったり、

名所を探索したりと、平和なままにその日は終わろうとしていた。

 

 

だが、運命はそう簡単には彼らに平穏という時間を与えてくれないらしい。

 

 

 

ホテルへ帰る途中、新一はふと、車窓を流れていく風景が尋常でないことに、

その始まった異変を感じ、快斗へと視線を移した。

予想通り快斗の表情は険しく、ハンドルを持つ腕にも少々力がこもっている。

 

「快斗、スピードだしすぎじゃねーか?」

「いや、それが・・・。今気づいたんだけど・・・。」

 

新一の問いに快斗は視線でイスの下を示した先には何かタイマーのような物体が・・・。

 

「どうやら、アクセルから足を離したら数十秒後に爆発する仕掛けみたい。」

 

 

[ご名答です。黒羽快斗。]

 

 

軽く舌打ちする快斗の声に反応したのは、その場にいる者ではなかった。

タイマーの横にはどうやら盗聴器とスピーカーがついているようで、

“まったく芸の凝った物だな”と新一は他人事のように感じてしまう。

 

 

「新一以外と交信してくれるんだね。」

[人数が多い方が楽しいですから。]

 

クスクスと陽気な声が車内に響く。

家族全員は真剣な顔つきとなり、優也だけが爆弾という単語に身を震わせていた。

 

 

「日本語、理解できてるンなら日本語で話せよ。操り人形さん。」

 

雅斗の怒気を含んだ声に“バレました?”と犯人の軽い声。

日本語の会話を盗聴する人間が、日本語を理解できないはずなど無い。

 

 

 

“さあ、旦那さんの運転テクニックを拝見させて貰いましょう。”

 

 

 

「じっくりと、目の奥に焼き付けるんだな。人形野郎!!」

 

 

どんどんと上がっていくスピード。

進めば進むほど交通量は増していく。

車の間を抜けながら、快斗は軽快なハンドル裁きで急カーブを曲がった。

パーパーっとクラクションの音がすさまじく響き渡る。

 

 

「お父さん、どうするつもり?」

「この先に、ドナウ河があるだろ?」

由佳が身を乗り出して快斗に尋ねるのを、危ないからと新一が席へ着くように促す。

 

「まさか、河に突っ込むつもりですか?

それでも河の周りには柵があるから河に入る前に衝撃を受けて、爆発しますし。

万が一爆発しなくとも、河の中央部まで行かないと周りへ余波が加わるから、危険です!!」

 

優也は快斗の返答に焦ったような様子で言葉を綴った。

市民の安全と、打算くらいは打ち出せる頭があるらしい。

新一は優也のそんな部分を認めつつも、まだ詰めが甘いなと彼の疑問に口を添える。

 

「1つだけあるだろ?河の中央部に行けて、

 なおかつ何にもぶつからないで河の中央に飛び込める場所が。」

 

 

新一の言葉のあと、視界に飛び込んできたのは入り口付近に遮断機の下りた橋。

船がもうじき通るため、橋は中央部から2つに分かれて上へと開いている途中だった。

 

あとがき

話もいよいよ終盤です。

これから、推理的な内容が多くなるので不安・・・・。

 

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