Stage19 「だけど、遮断機は・・・いったいどうやって。」 「そんなの、壊せばいいじゃねーか。」 そう言って新一が胸元から取り出したのは拳銃。 銀色の拳銃は改造銃のなのか、見たこともない形だ。 優也はその言葉と行動から、船での出来事を思い出す。 針を動脈に狂いもなく打ち込んだあの命中率・・・。 彼女なら・・・可能だ 「心配すんなよ。これは、そんじょそこらの拳銃じゃないしな。」 新一の言葉通り、橋の遮断機は木っ端微塵に吹き飛んだ。 あいにく、信号の影響でここに他の車が居なかったのが不幸中の幸いだ。 うしろからは、警告を知らせる笛が鳴り響いている。 「さて、降りる準備は良いか?」 快斗は後ろを振り向いてニヤリと笑えば・・・ 「バッチリ。」 「とんだ旅行ね・・・。」 「諦めろよ、由梨。」 「寒中水泳、肌に悪そう。」 と雅斗、由梨、悠斗、由佳の順番でそれぞれ返事が返ってくる。 その、返答は優也をさらに驚かせた。 自分より年下の子どもなのに、彼らには全く恐怖心がないのだから。 「普通じゃない・・・ぜってーおかしい!!」 「あんまり騒いでると舌かむぜ、優也さん。」 新一はシートベルトを外して、ドアのロックを解除すると、苦笑と共に優也へ忠告する。 車は船が通り過ぎ閉じかかっているとはいえ、 60°ほど傾斜のある斜面を一気に駆け上がるため、体は後ろのめりとなり エンジンは今にもオーバーヒートするんではないかと思うほどのいびつな音を立てる。 それでもどうにか、橋の割れ目までたどりつき・・・そのあとは、重力に任せて落ちるだけ 車が宙に投げ出された瞬間に、一斉に全てのドアを開けてそれぞれ外へ飛び出す。 雅斗は目を瞑っているのだが、上の方での爆発音や爆風、 そしてその光がまるで目を開けているときと同じように感じていた。 次に感じたのは、水に落ちたための衝撃と、冷たさ。 体が、川の流れに押し流されそうになるのを、足と手とを必死に使って泳ぐ。 酸素の補給のため浮かび上がりたかったが、 おそらくすぐに炎を纏った車が落ちてくるので、 急いで橋から遠い位置まで移動する必要があった。 弱い光が汚い水の中に差し込み、水の音が耳の横を流れていく光景は ゆっくりとした時間の流れを感じさせる。 「ガハッ」 ようやく水中から抜け出して、水を吐き出す。 横を見れば、ガソリンに引火したためか水の上でも車が激しく燃えているのが見えた。 水面はその炎のせいなのか、はたまた夕焼けによってなのか、紅く染まっていた。 そして辺り一面、黒い煙が覆っていて視界は最悪。 雅斗はとりあえず、橋のこちら側に飛び降りたはずの、新一、優也、そして由梨を捜した。 この衝撃におそらく耐えられはしただろうが、 思ったよりも早い川の流れや、予想以上に威力の大きい爆発の影響が心配だ。 失礼ではあるが、内心、優也以外無事であればいいと雅斗は思っていた。 「お・・にいちゃん。」 「由梨っ。」 弱々しい声の聞こえる方を見れば、流木に由梨が必死に捕まっている姿が見える。 雅斗は急いでそこまで泳いでいき、流木をたぐり寄せた。 「大丈夫か?」 「額を少し、怪我したみたい・・・。」 先程は遠かったために分からなかったが、由梨の額からはうっすらと血が流れていた。 おそらく、爆発の時に飛んできた細かい何かがぶつかったのだろう。 「傷にはならなそうだな。」 「それより、ちょっと・・水吸っちゃったみたい。」 ゴホゴホとせき込む由梨の体を引き寄せて、雅斗はとりあえず対岸を目指して泳ぎ出す。 まだ、新一の姿や優也の姿を確認できてはない無かったが、今は捜している余裕など無かった。 なんせ、ここは河の真ん中。 ただの河とはいっても、広さは日本の河とは比べ物にならないのだ。 それに、あの高さから飛び降りた衝撃はいくら慣れている雅斗でさえ少ししんどい物があった。 どうにか、岸まで泳ぎ着くとグタリとなった由梨を楽な格好に寝かせてやる。 額の傷をとりあえずハンカチで押さえて、雅斗は未だに燃えている車、そして橋を見つめた。 爆発の瞬間に、橋にも引火したらしく、消防車のサイレンが遠くでなっているのが聞こえる。 空には、テレビ会社のヘリコプターが現場の状況を撮影していた。 「映画のひとシーンみたいだな・・。」 「お母さんは?」 「もうすぐ来る。だから寝とけ、由梨。お前も昨日から相当無理してるだろう?」 「雅斗兄さんだって・・・でも、ゴメン。ちょっと休む。」 眠った由梨に風邪をひかないようにと上着を掛けようと思ったが、 自分の上着もびしょ濡れになっているのに気づいて止める。 これでは逆効果だ。 さて、どうしようか・・・。 そう思った時、タイミング良く近くを散歩していた老夫婦が駆け寄ってきた。 [あの車に乗っていたのかい?] [はい。すみませんけど何か着る物を貸してくれませんか?妹が寝ちゃったんで。] 雅斗は由梨にちらりと視線をやりながら、心配そうに見てくる老夫婦にそう頼んだ。 [私たちの家はすぐそこだ。暖まっていくと良い。] [ぜひ、そうしなさい。温かいスープでも用意するから。警察には連絡を入れとくわ。] ひとの良さそうな彼らに雅斗は従うことを決め、由梨を負ぶった。 予想以上に水で濡れた体は重く、思わずふらつきそうになる。 考えてみれば、昨日から一睡もしていなかった。 気がつけば、暖かい布団の中だった。 どうやら、夜は明けているらしく、見慣れない白い天井が視界に広がる。 起きあがって隣を見れば由梨がまだ寝息を立てていた。 額に、ガーゼがあててあるのを見て思考がようやく動き出す。 「そうだ、父さんや母さんっ。」 ベットから飛び出て、とりあえずすぐ部屋の前にあった階段をくだった。 下からは、4人ほどのドイツ語の会話が響いている。 2人の声は昨晩の老婦人のもの、あとは・・・。 「雅斗君っ。」 「ジェニーさん・・・。」 ガチャリと扉を開けて出てきた雅斗にジェニーはホッと息をついた。 「父さんたちは?」 「あら、気づかなかったの? 由佳ちゃん、悠斗君なら貴方が眠っていた隣の部屋で寝ているはずだけど。 ここの、息子夫婦さんがお父様方をここまで案内したそうなの。 お父様は起きてすぐに出かけたけど・・・。」 「・・・・それで、母さんは?」 とりあえず、家族の名前を聞きながら安心していくと共に、 一人名前が足りないことに、焦りを感じる。 新一の名だけがジェニーの言葉からは発せられなかった。 「・・それが見つかってないのよ。」 「どういうこと・・ですか?」 「インターポールの優也って名乗った捜査員が 今朝から本部へ要請して捜しているんだけど・・・。」 ジェニーはそう言い終わると首を横に振った。 河の奥底からも、鎮火した残骸からも、新一の手がかりは全く見つからなかったらしい。 そう、消えたと言う単語が当てはまるように。 「河の流れが速かったから、河口の街や土手を今、捜索中よ。 きっと、どこかで保護されているはずだわ。あの子はそんなに弱くない。でしょ?」 ジェニーの言葉を認めたかった・・・母さんはだれよりも強いとは分かっている。 けれど言いしれぬ不安が心の中で早鐘を撃って・・足は独りでに動き出す。 「・・・俺もちょっと行って来ます。」 雅斗は二階にいる兄弟たちを一瞬、気にかけながらも、 動き出す足を止めることは出来ず外へと飛び出した。 あとがき 新一君の失踪・・・・。 なんとなく、犯人が見えてきましたね〜。 |