Stage21 「悠斗、起きてる?」 「ああ。」 雅斗が起きた気配によって目を覚ました由梨はとりあえず隣の部屋へと向かった。 そこに、誰がいるかなんて、分かっていたから。 ぐっすりと眠っている姉を起こさないようにして2人はとりあえず由梨が休んでいた部屋へと戻った。 「さっき、下の方で雅斗兄さんが話しているのが聞こえたの。お母さんがいなくなったって」 「由梨、おまえは目星がついているんだろう?犯人に。」 「それが・・・この事件の犯人とは限らないけど。」 由梨は傍にあった枕を抱きかかえるようにして悠斗を見る。 彼は自分とは違って勘だけでなく、物的証拠で犯人に目星をつけているはずだということは 今朝、悠斗の寝起きの顔を見てすぐに分かった。 それが、少し悔しくもあったけれど・・・。 「会いに行くんでしょう?お母さんはお父さん達にまかせて。」 「あいつがいる場所も、見当が付いているからそうするつもりだ。由梨はどうする?」 「行くに決まってるじゃない。」 持っていた枕を軽く悠斗に投げつけて、ぼさぼさの髪を簡単に整える。 鏡ごしに見えたのは昨晩できた額の傷。 これさえなければ、兄は母親を捜すのに集中でき、誘拐などされなかったのではないか? 頭の中で、誰かがそうささやいた気がした。 「由梨、無駄なこと考えている暇があったら急げ。」 どうして、分かるのよ。いつも。 先に部屋を出ていく悠斗の背中をみつめて、由梨は声にならない疑問を呟いた。 雅斗が家を出て、その後ジェーンと警察が去ったのを確認してから、老夫婦にお礼を言い家を出る。 もちろん、姉への書き置きを忘れずに。 向かったのは、ドナウ川ではなくハプスブルグ家夏の離宮。 ここに来て初めて訪れたオーストリアの観光スポット、シェーンブルン宮殿へ。 「ところで、今回は哀姉さんからの情報?」 「俺独自の情報。あんまり哀姉に頼ってたら怒られるし、メンツ、保てないだろ?」 「いい心がけね。」 朝のこんな時間ではタクシーはなかなか見受けられないし、2人で乗るのも少し危険性が高いために、 シェーンブルグ宮殿へは歩いて向かっていた。 老夫婦の話では子どもの足でも30分はかからないらしい。 2人は歩きながら、お互い仕入れた情報の交換を行う。 悠斗が調べたのはあのインターポールの刑事『優也』について。 由梨は、新一に必要な薬の準備を行っていたので情報はほとんど仕入れてはいなかったが。 「優也は幼い頃からR.Aで殺人鬼としての教養を受け、インターポールに忍び込んだ。」 「つまり今回の殺人を行ったのは彼ってことね。 マリオネットの仕業に見せかけて行うなんて卑劣きわまりないけど、目的はなんだったの?」 由梨は悠斗の話しを頭で整理しながら、疑問点を投げかけた。 優也という人物をあまり詳しく知らない由梨にとってはまだ事件のひとかけらも理解できないのだ。 分かっているのは、彼が典型的な愉快犯の性格と言うことだけ。 「Angle tearsを手に入れるためらしい。だけど、マリオネットの目に付いているのが偽物だったから 任務を成功することが出来ず苛ついて、適当に殺したんだとさ。」 「でも、ちょっとおかしくない?Angle tearsの競売にさえ彼らは現れなかったじゃない。 それに、優也はR.Aを捕まえているのよ。」 「インターポールの古株刑事の暗殺が次の指令だったって考えれば説明が付くだろ? もちろん、雑魚の仲間を犠牲にして。R.Aは警察関係者が殆どだって話しだから、 捕まってR.Aの事をもらしでもしたら、すぐに警察内部の人間から殺される。 つまり情報が漏れるリスクは低いし、それだけやってでも、あの刑事を殺したかったらしいな。 回りくどい方法を使ったのは、不要な部下を処分するためだとして・・・・・ あとの、Angle
tearsを盗まなかった理由はまだ分からない。 でも、雅斗兄は多分そこらへんのこと調べていると思うから、分かるだろう。 とにかく、今は母さんのことは父さんたちに任せて・・・・」 「私たちは殺人鬼を捕まえるべきなのよね。」 見えてきたシェーンブルン宮殿を見据えれば、そこには目的の人物が立っていた。 「あら、由希を捜しにきたのなら河はあっちよ。」 「ジェーンさんこそここで何をしているんです?」 由佳の問いかけに、ジェーンはニコリと笑って拳銃を向けた。 朝の早い時間帯、おまけに開館していない宮殿の周りは人通りが少ない。 「最初にこの宮殿であったときから、殺したかったのよ。由梨ちゃん。生意気なガキはね。」 「私も最初にあったときからあなたが嫌いでした。ジェーンさん・・・いえ“優也”。」 由梨の言葉に、ジェーンは、いや優也は凍り付いたような表情となったが、 すぐにそれも戻り大声で笑い始めた。 薬でもやっているのではないかと思うくらい狂った笑い声で。 「よく、分かったな。」 笑いおさまって聞こえるのは、ハスキーボイス。 ジェーンではなく、優也の声。 「あなたと初めて会ったリンツでは、知っている刑事に似ていたから好感が持てて、気づかなかったけれど、 昨日、1日一緒に行動してすぐに分かったわ。初めて私たちが会った“ジェーン刑事”はあなただって。 そして、今朝、家にいたのもあなたね。」 由梨の推理を優也は楽しそうに聞いていた。 まるで自分の最高のシナリオを堪能するかのように。 「あんたは、顔合わせのために初日、ジェーンのアリバイを作るために今朝、ジェーンに成り代わった。 全ては、最高の宝石を手中に収めるために。ジェーン刑事のそれこそ操り人形となって。」 「さすが、日本で名の知れた名探偵。証拠といえる物はないが気配だけで気づいたことを賞し認めるよ。 まあ、僕が犯人だと分かっても誰かに伝える前に死ぬのだから意味はないんだけどね。」 由梨の前に出て、推理を続ける悠斗に優也は銃口をゆっくりと向けた。 「連続殺人事件とマリオネットはなんの関係もない。そして、Angle tearsも。 警察は無能だから、ちょっと隠れ家なんていう手がかりを残せば、それに執着する。 そして、連続殺人事件がマリオネットの仕業であると思いこませ、ジェーンは KIDへの復讐もマリオネットの完成も警察に気づかれることなく行えるんだ。 由希さんやKIDも連続殺人事件の1つとしてしかカウントされないから。 木を隠すのなら森の中ってよく言うあれのようにね。俺は宝石だけ手に入ればいい。 例えあの女の操り人形のようになろうとも。」 「Angle tearsに魅了された哀れな人間の末路は決まっているのよ。」 「君たちは窮鼠猫を噛むタイプだね・・・。 追いつめられた奴は哀願するかやけになるかのどっちかだ。」 ジリジリと近づいてくる優也を2人は鋭い眼光で睨み付ける。 風が両者の間を通りすぎた瞬間、銃弾の発射音が辺りに響いた。 +++++++++++++ 「で、優也については今朝、悠斗の置き手紙で分かったんだけど、なんで盗まなかったの?」 どうにかとれた飛行機の席で、こちらも情報交換を行っていた。 「盗む必要がなかったんだよ。俺達があの宝石を盗むことを予想していたからな。 優也は彼女がその宝石をオレ達の手から奪い、自分に渡すという条件で、爆弾をオレ達の車内に仕掛けたんだ。あの爆弾の被害を最小限にするためには、ドナウ川に向かうしかないしな。 たぶん、優也はKIDとオレ達の関係については何にも分かっちゃい無いだろう。 彼女の操り人形なんだよ、あいつもR.Aも。」 「で、おまえらが盗んだ宝石は?」 仮眠をとっていると思った快斗がいつのまにかしっかりとした意識でこちらを見ていた。 丸3日起きていたはずなのに、僅か十数分の仮眠で回復するとは、さすがといえよう。 「ああ、ここに持ってる。天使の涙に堕天使の涙。で、父さんが仕入れた情報は?」 「初代KID、つまり俺の父さんとAngle tearsの関係さ。 これが今回の事件の根底に流れているのかもしれないな。」 低めの重い声に雅斗と由佳が快斗の方を見れば、やるせない悔しそうな表情だった。 黒羽盗一がAngle tearsの存在を知ったのは、本当に偶然だった。 たまたま、オーストリアに立ち寄ったとき 街の飲み屋で聞いたのは1つの人形にまつわる悲劇的な恋の話。 [てわけで、ビッグジェルであるはずなのに有名にならなかったんだよ。この宝石は。] [そうだったんですか。] 茶色のひげを生やした男性は丁寧にその昔話を語ってくれた。 そして、同時にそのマリオネット劇場にある噂の人形の写真も・・・。 哀しい目をした人形だった。 瞳には輝きこそないが、それでも昔話を思わず信じてしまうほどの人間の瞳と相違は無い。 盗一はその飲み屋を出た後、寺井に連絡を取ってその宝石を盗むことに決めたという。 「ここまでは、寺井ちゃんに聞いた話なんだけどね。」 快斗がそこまで話し終えた瞬間、シートベルト着用ランプが点灯する。 どうやら、そろそろサルツブルグの空港に着陸するようだ。 「父さん、話の続きは。」 「まだ、確かじゃない部分があるから、犯人に確認をとってから話すよ。 偽りは語りたくないからな。」 「ちょっと、それじゃあ、まるでお父さん一人で犯人に接触するみたいじゃないっ。」 思わずシートベルトを外して体ごと快斗の方へ向け、前のめりになる由佳を 雅斗はどうにかなだめて、席へと戻す。 だが、雅斗も妹をなだめながら、快斗の言い方に疑問を持っていた。 おとなしくなったものの、ジトリと視線を向けてくる2人に苦笑しながら、 快斗はフウと一息ついて口を開く。 「じゃあ、暗号の答え合わせだな。まず、“無駄にうたた寝している間に、誘拐されてしまった者へ”の文。 誘拐は英語で‘kidnap’そこから無駄なうたた寝つまり‘nap’を引くと‘KID’ってなるだろ。 俺が思うにこれは親父の事を指している。 次に“天使の瞳が紅く染まる前に”っていうのは新一の現状についての脅し。 KIDを呼ぶ必要があるのは親父への復讐だろう。 詳しいことはまだお前たちには話せないけど、とにかく、親父のけりは俺が付けたいんだ。 ・・・雅斗、お前には譲れない。」 今まで見たことがない真剣な快斗の表情に、雅斗と由佳もゴクリと息をのんだ。 初代KIDの盗一、つまり彼らの祖父について2人は知らないことが多い。 だけれど、そんな盗一を快斗が尊敬し、なにより執着していることは 昔からよく新一に聞かされていたので分かっているつもりだ。 「俺達は雑魚の処理だな、由佳。」 「まったく、美味しいところは譲るわよ。お父さん。」 機体に軽い衝撃がはしって、ドイツ語と英語で無事着陸したことや、 サルツブルグの天候についての機内放送が流れる。 快斗は小さな鞄だけを持って、先に席を立った。 雅斗と由佳もそれに続く。 真剣な表情で人混みをかき分けながら進む快斗と雅斗を見て、 由佳は自分が深く入り込めない領域である“KID”の存在を改めて実感していた。 あとがき 推理が書けない・・・。本当に意味不明な文章ですみません。 補足しますと、宮殿と老夫婦の家にいたジェーンは優也だったということです。 |