「先生?」

悠斗は周りを見渡した。

先生と呼べれるに値する人物を捜すために。

自分は制服を着ているのだから教頭がいくら難でも見間違えるはずもない、それなら・・。

悠斗がおもむろに新一の方へと視線向けたとき、教頭はすぐ傍まで駆け寄ってきていた。

 

◇棘の道・5◇

 

「ああ、すみません。工藤先生にあまりにも似ていたものですから・・。」

 

教頭は白髪交じりの頭をかきながら、困った顔をして笑う。

 

「工藤先生って、誰ですか?」

「君は2年の生徒ではないね。」

 

にっこりと教頭は穏やかな笑顔を悠斗に向けた。

その笑顔によって彼の口もとに深いしわが誇張されて、老いを感じさせる。

いつもよりも、年増に見えるのは気のせいだろうか?

 

「工藤先生は、2年に入った新しい女の先生でね。この方に似ているんだよ。」

 

黙ったままの悠斗を見ながら、教頭は話を続ける。

そしてそれが終わると同時に“すみませんでした”と再び新一に頭を下げて

急ぎ足で校舎へと入っていった。

 

その後ろ姿を見ながら、悠斗は先日の啓介の言葉を思い出す。

“ちょっと悠斗の母さんに似てて美人だったぜ”

あの時は人をからかっているのかと思ったが・・・。

 

「で?」

悠斗はひとまず納得して視線を新一へ戻した。

新一は未だに教頭の入っていった校舎を見つめていたが悠斗の声に思い出したかのようにこちらを向く。

 

「で、って?」

「どうして軽く変装してここにいるのかって聞いてんだよ。」

「弁当だよ、弁当。おまえ、忘れていっただろ。

 それに、ちょっと母校で調べモノがあったから軽く変装して来たんだよ。

 まだ恩師も何人かいるし、俺だってばれるかも知れないだろ。」

 

「・・・ま、いいけど。」

 

視線を逸らして頭を後ろ手に組む悠斗の態度はほとんど信用していないようであったが、

とりあえず、この学校に潜入捜査をしていることはばれていないので良しとしよう。

新一はそう完結づけて、鞄から悠斗への弁当を取り出した。

 

紺色の弁当包みが新一の手から悠斗の手へと移る。

悠斗の弁当は同年齢の男の子の弁当と比べると割と小さい。

新一はそれが少し気に掛かっているのだが、快斗に“新一はそれ以上に少なかったんだよ”と

言われてしまって以来、あまり強く言えないでいる。高校生らしくもっと食べろと。

 

「母さん。」

「ん?」

「あんまり無理しないでくれよ。じゃっ、弁当サンキュ。」

 

悠斗は弁当を鞄にしまうとすぐに学校の方へと走り出す。

その一言は、まるで自分が今、行っていることを見透かされているかのようだった。

 

カサっ。

「あれ、これって。」

 

足下に当たったのは、悠斗が持っていた新聞のコピー。

今朝、家を早くに出たのは図書館によるからと由梨から聞いたが・・・。

いったい何を調べているのだろうと、興味半分にその記事に目を通す。

記事はほんとうに小さなもので、普通に読んでいたら見落とすほどの大きさだ。

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++

7月21日深夜、○×区のマンションで女性の死体が発見された。

亡くなったのは同マンションに住む小川明菜さん、23歳。

近くからは遺書が発見され、警察は自殺と断定した。

彼女は都内の高校に今年の春勤めはじめたばかりで・・・・

++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 

新一はそこまで記事を読んで、それを鞄へとしまった。

職場についてからも不安を持つ人間は数多くいるし、自殺と考えて間違いない。

だが、そんな記事をわざわざ悠斗がコピーする理由は・・?

 

「彼女がここの教師だったってことか?」

 

この学校の若い女性教師ならば藤本が関係している可能性は大きい。

しかし、この記事には残念ながら学校名は記載していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「無い。」

 

重役出勤並の遅さで登校してきた悠斗が教室に入ってまずはじめに口にしたのは

“遅れてすみません”でも“おはようございます”でもなくその一言だった。

 

「何か無くしたの?」

「いえ、なんでもないです。遅れてすみませんでした。」

気の弱そうな担任が心配そうにおどおどと聞いてくるのを軽くかわして悠斗は席へと着く。

再び鞄をごそごそと探りながら。

 

 

 

「なぁ、悠斗。おまえ、何を無くしたんだ?」

「大したものじゃねーから気にするんな。

 それより、おまえらこの学校で自殺した教師の噂知らねーか?」

 

休み時間になってわらわらと集まってきたいつもの4人に、悠斗は頭を切り換えて情報収集をはじめた。

記事を無くしたのは困ったけれど、またコピーすればいいのだし。

 

「自殺した教師?俺はしらねーけど。」

「ああ、俺、知ってるぜ。ねぇーちゃんがここの高校を3年前に卒業したからな。」

 

髪を茶色に染め、赤のピアスをつけた一人が自慢げに話し始める。

物知りの悠斗よりも情報を持っていたことと役立てることが彼なりに嬉しいのだろう。

彼は、話の内容には不釣り合いの表情で自殺した教師の話を続けた。

 

「自殺の動機は不明でさ、遺書にも“つかれた、耐えられない”しか書いてなかったって。」

「それ、俺も聞いたことあるぜ。確か・・・A組の大島の従姉妹だったっけ?」

「啓介の?」

 

茶髪の彼の声を遮って、背の高いバスケ部の友人が今度は口を開く。

それは、悠斗の興味をひくには充分の内容だった。

 

「俺、中1で同じクラスだったから知ってるんだ。

 新聞記事を握りしめて、凄い形相だったから訳を聞いたらそう教えてくれた。」

「で、それがどうかしたのか?」

 

眼鏡をかけた、学級委員長が興味深そうに話を締めくくる。

他の3人も同様の表情だ。

 

「・・・・ちょっと行ってくる。」

 

悠斗は後ろで“教えてくれ”と騒ぐ友人を置いて、A組へと向かった。

大島啓介に話を聞くために。

 

 

「いない?」

「うん、大島君なら昨日から休んでるわ。なんでも風邪だとか。」

 

入り口付近にいた女子に啓介を呼んでと頼めば返ってきた答えは至極簡単なものだった。

彼が学校を休むのは珍しくはない。

昔からなにかと理由を付けて学校をサボっていたから。

 

「何かようだったの?」

「いや、いいけど。最近、あいつの様子どうだった?」

「別に普通だったかな?うん、いつも通りさわいでたし。」

「ありがと。」

 

悠斗はその女子に礼を言って携帯をとりだした。

学校での使用は制限されているが今更そんな事を気にする性格でもない。

大島啓介の自宅への番号を押して、彼が電話に出るのを待つ。

数回のコールの後、低めの女性の声が耳元に響いた。

 

あとがき

今回の出来は、今までの中で最悪かもしれません・・・。

とりあえず、新一の正体に気づいたかどうかは・・・保留(おいっ)

次回はそろそろアノヒトが殺されます。

 

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